はじめに
いま、日本では所有者不明土地の問題が深刻であるといわれています。
所有者不明土地とは、言葉の通り「所有者が誰なのか、わからなくなってしまっている土地」です。もともとは誰かの土地であったものの、その土地所有者が亡くなってから相続手続きが行われなかったなどの理由で、相続人が誰なのかを特定することも困難になってしまい、結果的に所有者不明状態に陥っているのです。
この所有者不明土地の面積を合計すると、2016年の調査時点で九州の土地面積を上回り、2040年には北海道の面積に匹敵する面積が所有者不明土地になると予想されています。都市部の地価は高騰している一方で、維持管理も整備もされずにどうにも手が出せない無価値状態になってしまった土地が、これだけ日本国内に散在しているという著しい歪みが生じています。
この記事では、この所有者不明土地がもたらす影響や、日常生活にも及んでいる変化についてご紹介します。
所有者不明土地は何が問題?
所有者不明土地自体はずっと昔から存在していたものの、この認知度が大きく高まったきっかけは東日本大震災でした。
震災復興のために、新たな道路などの公共施設や災害対策整備が必要となった一方で、その工事にあたって「整備したい土地の所有者が不明」という場所が続出し、用地取得に時間を要したり、工事がスムーズに進まなかったりなどの問題が多発したのです。
例えば、相続登記が行われていない土地では、その土地の使用や売却についての権限を持つ存命の所有者(相続人)を特定しなければなりません。しかし、登記簿に載っている最新の土地名義人が昭和初期の所有者であった場合には、ひ孫や玄孫(ひ孫の子供)の世代にまで相続人が増えており、関係者が100人を超えているケースも珍しくありません。
こうなると、用地取得をするにも相続人全員の名前や居場所を特定し、全員に交渉をして承諾を取り…と、ちょっと考えただけでも気が遠くなるような作業が必要になるのです。
毎年のように発生している激甚災害により、防災意識も年々高まり、全国各地で災害対策も積極的に取り組まれています。しかしその裏では、所有者不明土地がその整備を妨げ、思うように対策が進んでいない場所も多くあるのが現実なのです。