はじめに
税の繰り延べ制度であるiDeCoは、受け取り時の税金対策は避けて通れない課題です。特に今回の「iDeCo改悪」の対象となってしまう方は、対策があるのであれば知りたいところでしょう。前回に引き続き、iDeCoの受け取り時の税金について詳しく解説していきます。
前回記事:手取りはどれだけ減る? 「iDeCo改悪」によってどのくらい不利益を被るか
退職金にかかる税金のルール
今回「iDeCo改悪」と叫ばれているのは、60歳以降にiDeCoの老齢給付を受け取る際の税金のルールが変更された点です。
税制上iDeCoの老齢給付は定年退職時に企業から受け取る退職金と同じ扱いを受けます。これは確定拠出年金が、そもそも企業の退職金の一種である「企業型確定拠出年金」として普及が進んだという背景があるからなのだと考えます。
退職金は、勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引き、超過分半分にだけ課税(分離課税)されます。勤続20年までは1年あたり40万円、それを超えると1年あたり70万円で控除額が計算されるので、長く勤めればそれだけ有利に退職金が受け取れます。
しかしこの退職金のメリットを受けられる方が時代の経過とともに少なくなってきました。一生涯同じ会社に勤める方が減少し、転職が珍しくなくなったのです。勤続年数は転職の度にリセットされますから、退職金を受け取る際の大きな退職所得控除が期待しにくくなりました。
そこでiDeCoの登場です。こちらは加入期間を勤続年数とみなして退職所得控除を計算します。加入期間は、転職をしても関係なしに延びていきますので、長く加入すればその分だけ将来メリットが受けられます。iDeCoは、まさに時代に見合った自分で創る退職金なのです。
もちろん、有利な税の仕組みで受けられる退職金も、その控除額を上回るような高額な場合は税金の支払が発生します。また複数の退職金を受ける場合も、課税される金額が大きくなります。
会社員にとって、複数の企業に重複して勤務し、かつ複数の退職金を受け取るというのはイメージしにくいと思うので、X社長を例に説明を進めます。X社長は自身でA社、B社ふたつの会社を経営しています。
A社は創立から35年なので、X社長の勤続年数は35年です。退職金は1800万円としましょう。B社の勤続年数は25年で退職金は1000万円です。この「複数の退職金」を60歳で受け取ると税金はどうなるのでしょうか?
複数の退職金を同年受け取りする場合、「ひとつのまとまり」とするので、退職金は2800万円となります。退職所得控除はAが1850万円(800万円+70万円x15年)、Bが1150万円(800万円+70万円x5年)あるのですが、これまでの勤続年数のうち25年間は「重複」しているので、そこは退職所得控除として認められません。従って退職所得控除額は1850万円となります。
退職金合計2800万円から1850万円の控除を引くと残りは950万円、それを2分の1するので課税対象は475万円となります。その後分離課税されるので、所得税522,500円、住民税475,000円、合計997,500円の税金の支払が発生します。この計算ルールはB社の退職金の受け取りを64歳までずらしても同じ計算となります。
それぞれの退職金は、退職所得控除額内なのに、複数の退職金を受け取ると税の優遇が薄れてしまう、これが退職金です。