はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
最近、配偶者控除見直しのニュースをよく耳にします。私の妻は一昨年から子育てのために専業主婦をしていますが、見直しによって専業主婦家庭の負担は増えるのでしょうか? 「今すぐに」とは考えていませんが、また妻が働きに出る想定で、今後の生活設計を考えたほうがよいのでしょうか。
(30代後半 既婚・子供1人 男性)
野瀬: ご質問ありがとうございます。このようなニュースに触れた際には、まず基礎知識を押さえてみましょう。
「配偶者控除」とは?
そもそも配偶者控除とは、どういったものなのでしょうか?
私たちのお給料から差し引かれる「所得税」は基本的に「{(1)給与-(2)給与所得控除-(3)所得控除}×(4)税率」という式で計算されます。
配偶者控除は、この式の(3)所得控除に入ります。
現在は世帯主Aさんの結婚相手の給料が103万円以下の場合、その人の所得税の計算において38万円が所得控除として差し引くことができるのです。ほか所得控除には年金などの社会保険料控除、一定の年齢の子供がいる場合の扶養控除などがあります。
配偶者控除が廃止されると?
さて、この配偶者控除がもし完全に廃止されるとどれくらいの影響がでるのか? ざっくり計算してみましょう。
先ほどの式を見ていただくとわかるのですが、もし38万円の配偶者控除がゼロになった場合、税金がどれくらい増えるかは「38万円×税率」で計算できます。
日本の所得税の税率はたくさん稼ぐ人ほど税率が高くなる「累進課税制度」を取っているので、この税率は人によって違い、結果この配偶者控除の影響額も人によって異なります。
仮に税率10%だとすると、その影響額は3万8,000円。1年間で3万8,000円の増税ということです。15%だと5万7,000円、20%だと7万6,000円になります。
配偶者控除の変更点
この3万8,000円から7万6,000円程度の増税を多いとみるか少ないとみるかはその方次第だと思いますが、配偶者控除の見直しを見据えて生活設計を変える必要があるかについても考えたいと思います。
一昔前に比べて専業主婦世帯は減少しており、今は共働き世帯が多くなっています。また103万円を超えて稼ぐと「夫の税金が高くなるから」といって、パート時間を調整する方がいるのも事実です。これらの事実を踏まえて、政府は「女性の社会進出を助けるため」配偶者控除の廃止を検討していました。
2017年税制改正では要件に「世帯主の年間の合計所得金額が1,000万円(給与収入のみの場合、年収1,220万円)以下」という項目が追加されました(2018年分以後の所得税について適用)。
これまでは納税者の方の収入がどれだけあっても、配偶者の所得が一定以下であれば控除を受けることができましたが、今後は高所得者は配偶者控除が受けられなくなります(合計所得900万円から控除額は段階的に減額)。
しかし一方で、「配偶者特別控除」の対象となる、世帯主と配偶者の年間の合計所得金額、控除額も変更されました。こちらは単純に増税とはいえず、今回の改正によって従来は配偶者特別控除の対象外だった年収141万円~201万円の方が対象に含められたので、パートで働く方にとってはうれしい変更です。
働かないと不利?
では、もし将来的に配偶者控除が廃止されると「専業主婦のメリットがなくなって働かないと不利」になり、すぐさま働きに出るべきなのでしょうか?
私はそれは違うと思います。
人にはいろんな事情があります。お子さんが小さく、かつご実家の助けが得にくい方の場合は夫か妻のどちらかが子育てに専念することがよいこともあるでしょう。また人によって仕事に向く人もいれば、育児が向く人もいます。
そういった「数字には表れない部分」をしっかり考えたうえで、税制上の問題点は追加事項程度で考えて判断するのがよいでしょう。100万円超えるような影響となるのであれば話は別かもしれませんが、数万円の影響なのに「生き方」自体を見直すことはなんだか馬鹿げている気がします。
確かに税金は家計において重要なファクターのひとつではありますが、その一つひとつの小さな動きに自分の人生までもが引っ張られないように気をつけたいですね。