はじめに

「親から田舎の土地を相続したけれど、使い道もなく、売ることもできない…」「毎年の固定資産税が負担になっていて、できれば手放したい…」——そんな悩みを抱える人が増えています。

特に、売却が難しい山林や原野、管理が必要な空き家などは、相続したことで、不動産自体の価値や得られる収益よりも支出の方が上回り、資産というよりも負債ともいえる“負動産”(マイナス資産)になってしまうこともあります。こうした背景から、「不動産だけでも相続放棄できないのか?」と考える人も増えているのです。

しかし、相続放棄には法律上の制限や注意点があり、必ずしも気軽に、容易に選べる選択肢とは言いきれません。さらには、正しい知識を持たずに手続きを進めてしまうと、思わぬ不利益を被る可能性もあります。

この記事では、いらない不動産を相続放棄することは可能なのか、またその具体的な手続き方法や注意点、他の選択肢についてもわかりやすく解説していきます。


相続放棄とは?基礎知識を確認

相続とは、故人(被相続人)の財産や権利・義務を、遺された家族(相続人)が引き継ぐことを指します。相続財産には、現金・預金・不動産・株式といった「プラスの財産」だけでなく、借金や未払い金といった「マイナスの財産」も含まれます。

そのため、例えばマイナスの財産がプラスの財産を上回っている場合など、状況によっては相続を放棄した方がよいケースも出てきます。

相続人は、以下の3つの選択肢から相続の方法を選ぶことができます。

1.単純承認
すべての財産(プラスもマイナスも)をそのまま相続する方法です。何も手続きをしなければ自動的に単純承認とみなされます。

2.限定承認
相続によって得た財産の範囲内でのみ債務を引き継ぐ方法です。相続人全員の合意が必要であり、手続きも煩雑なため、利用されるケースは比較的少ないです。

3.相続放棄
一切の相続財産を引き継がない方法です。放棄を選んだ場合、その人は最初から相続人でなかったものとみなされます。

土地などの不動産についても、相続放棄をすればその権利も義務もすべて手放すことができます。ただし、土地は資産価値の多寡にかかわらず財産の一つである以上、相続放棄は相続財産すべてに対して行う必要があり、「土地だけ放棄して、他の財産は引き継ぐ」ということはできません。
この点については、次の章で詳しく解説していきます。

土地だけを放棄することはできるのか?

「相続した土地は使い道がなく、固定資産税ばかりかかる。せめて土地だけでも放棄したい…」

そう考える方は少なくありません。しかし、先ほど述べた通り、不動産だけを選んで放棄することはできません。

民法では、相続財産に対して選択的に承継することを原則として認めていません。つまり、一部の財産だけを相続し、他は放棄するということはできず、“相続をするか、放棄するかのどちらか”を全体で決める必要があります。

相続放棄を選んだ場合、現金・預貯金・株式・不動産など、すべての財産を放棄することになります。たとえば、親の土地を放棄したいからといって相続放棄をすると、同時に親が残してくれた預金や貴重品もすべて受け取れなくなるのです。

一方、「不要な土地だけを手放して、他の財産は相続したい」場合は、相続放棄ではなく別の方法を検討する必要があります。たとえば、不動産の売却や贈与、または近年注目されている「相続土地国庫帰属制度」の利用などです。

また、「自分は相続せず、他の相続人に土地を譲りたい」という場合には、遺産分割協議で合意すれば、結果的に土地を放棄することは可能です。ただし、それは土地を引き継いでくれる相続人と話し合って合意する必要があるうえ、相続人としての権利は放棄していないことになるため、相続放棄とは異なります。

ポイントは、「相続放棄=すべてを手放す選択」であることを正しく理解することです。次の章では、実際に相続放棄を行う際の具体的な手続きと期限について解説します。

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