はじめに
相続放棄の手続き方法と期限
相続放棄を行うには、家庭裁判所での正式な手続きが必要です。単に「土地をいらない」と口頭でいったり、遺産分割協議に参加しなかったりするだけでは、法的に相続放棄とはみなされません。ここでは、相続放棄の手続きの流れと、重要な期限について解説します。
<相続放棄の手続きの流れ>
①必要書類を準備する
相続放棄には、以下の書類を準備する必要があります。
- 相続放棄申述書(家庭裁判所で取得、またはWebサイトでダウンロード可)
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までのすべて)
- 相続放棄をする人(申述人)の戸籍謄本
- 収入印紙(申述人1人につき800円)
- 郵便切手(裁判所によって異なる)
②家庭裁判所に提出する
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、上記の書類を提出します。※郵送での提出も可能です。
③裁判所からの照会書に回答する
提出後、家庭裁判所から「相続放棄に至った理由」などを問う照会書が届くことがあります。誤解なく、正直に記入しましょう。
④相続放棄の受理通知が届く
問題がなければ、数週間以内に「相続放棄申述受理通知書」が届き、正式に相続放棄が成立します。
⑤(必要に応じて)受理証明書を取得する
金融機関や登記手続きなどで証明が必要な場合は、家庭裁判所に申請すれば「受理証明書」(1通150円)を取得できます。
相続放棄の期限に注意
相続放棄には、厳格な期限があります。相続放棄は、相続開始を知った日(通常は死亡日)から3か月以内に手続きを行う必要があります。この3か月の期間は「熟慮期間」と呼ばれ、相続するか放棄するかを決めるための猶予期間です。期間内に何も行動をしなければ、自動的に単純承認(すべて相続)したとみなされてしまいます。
期限を過ぎてしまった場合は?
やむを得ない事情で期限を過ぎてしまった場合、状況によっては「熟慮期間の伸長申立て」を家庭裁判所に提出し、猶予を認めてもらえるケースもあります。
ただし、これは例外的な措置であり、認められるかどうかは裁判所の判断によります。また、相続財産を一部でも使ってしまっている場合(預金を引き出す、不動産の名義変更など)は、すでに単純承認したと見なされる可能性があるため、注意が必要です。
相続放棄のメリット・デメリット
相続放棄は、不要な財産や借金を引き継がずに済む点で魅力的な選択肢ですが、当然ながら注意すべき点やデメリットもあります。この章では、相続放棄を選ぶ前に知っておきたいメリットとデメリットを整理しておきましょう。
<相続放棄のメリット>
①負債や“負動産”を引き継がずに済む
故人の借金のほか、管理・維持費用ばかりがかかる使い道のない土地など、いわゆる“負動産”を放棄できるのは相続放棄の最大のメリットです。不動産に限っていえば、特に地方部にある放置状態の山林・農地・空き家などは売却も難しく、固定資産税や管理リスクを考えると、むしろ「相続しない方が良い」ケースもあります。
②将来的なトラブルを回避できる
不要な不動産を相続してしまうと、後になって近隣住民との境界問題や災害時の損害賠償といった思わぬトラブルが発生する可能性もあります。相続放棄をすることで、こうしたリスクからも解放されます。
③遺産分割協議に参加しなくて済む
相続放棄をすると、その人は最初から相続人でなかったものと扱われるため、遺産分割協議の場に加わる必要もありません。親族間のトラブルを避けたい場合にも有効です。
<相続放棄のデメリット>
①プラスの財産もすべて失う
相続放棄は、財産全体を対象にするため、現金・預金・貴金属など、プラスの資産も一切受け取れなくなります。「土地は放棄したいけれど、預金は欲しい」という選択はできません。
※生命保険金は、原則として「受取人固有の財産」とされるため、保険金の受取人が相続人になっている場合等、保険の契約内容によっては、相続放棄しても受け取れる場合があります。
②次順位の相続人に負担が移る
自分が相続放棄をすると、自動的に次順位の相続人(例:兄弟姉妹や甥姪など)に相続権が移ります。その結果、今度はその人たちが相続するか、相続放棄を検討しなければならなくなり、場合によっては「自分だけが抜けがけして、兄弟に負債を押し付けて”ひんしゅく”を買う」「回り回って自分の子どもに相続が降りてくる」といったリスクもあります。
③放棄後の撤回が基本的にできない
相続放棄は、一度手続きが受理されると原則として取り消し・撤回ができません。たとえ後になって「プラスの財産の方が多かった」と分かっても、放棄したことを取り消すことは非常に困難です。
相続放棄は、一見シンプルに見えますが、判断を誤ると大きな損失につながる可能性もあるため慎重な判断が求められます。次章では、「相続放棄が難しい」「したくないが土地は不要」といった場合に検討できる代替策についてご紹介します。