はじめに
株式に投資する場合、まず投資先企業の財務諸表をチェックする人が大半だと思います。でも、これからは投資信託を選ぶときも、運用会社の財務諸表をチェックする必要が生じてくるはずです。
経営の状態を示す財務諸表
株式を上場している企業は、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を常に開示して、誰もが閲覧できるようにしておく義務があります。
なぜなら、株式への投資を通じて資本参加してくれた投資家は、保有している株数に応じた議決権を持つ企業のオーナーだからです。そのため、企業は経営状況がどうなっているのかを、オーナーである株主に報告しなければなりません。
また、株式はそれを発行して資金を調達した企業が債務超過などによって倒産すると、出資した資金が投資家の手元に戻って来なくなるリスクがあります。銀行預金のように、上限付きとはいえ、一定額まで預金保険機構が元本の払い戻しを保証してくれるのとはワケが違うのです。
こうした理由から、上場企業のホームページには「IR情報」というタブが設けられており、そこをクリックすることで、最新の財務諸表等が見られるようになっています。
財務諸表には、ある時点において、その企業がどの程度の資産を持ち、負債を抱えているのかを見るための「貸借対照表」と、一定期間中にどの程度の売上を得て、そこから各種経費を差し引いたうえでどのくらいの損益になったのかを見るための「損益計算書」があります。他にキャッシュフロー表もありますが、まずこの2つの財務諸表を読めることが大前提です。
財務諸表の見方
簡単に見方を説明すると、貸借対照表には企業が売上を得るために保有している工場や設備、あるいは事務所などの「資産」、借入金や未払金などの「負債」、そして株式を発行して調達した資本金、これまでの企業活動によって蓄積された剰余金などの「純資産」という、大きく分けて3つの項目が、それぞれどの程度の金額になっているのかが記載されています。当然、負債に対して純資産の金額が大きいほど、倒産するリスクが低いと考えられます。
また損益計算書ですが、これは売上から各種経費を差し引いたうえで、最終的な損益がプラスかマイナスかを見るためのものです。プラスであれば黒字決算ですし、マイナスであれば赤字決算です。企業にお金を貸している銀行は、一般的に1期の赤字で「要注意」、2期連続赤字で「危険」、3期連続赤字で「事業継続が困難」と判断します。つまり連続して赤字が続いている企業は、破綻する恐れがあるのです。この手の企業に投資するのは、避けなければなりません。
業績低迷を理由に撤退する運用会社が増える?
さて、ここからが本題です。これからは投資信託を設定・運用している運用会社に関しても、財務諸表をチェックする必要があります。なぜなら、業績の低迷を理由にして、投資信託の運用から撤退する運用会社が出てくる恐れがあるからです。
過去、投資信託の運用会社といえば、大手金融機関系列が大半でした。ここ数年、金融機関系列の運用会社に対する風当たりが強く、逆に特定の金融機関と強い資本関係を持たない独立系運用会社がもてはやされる傾向がありましたが、金融機関系列の運用会社にも良い点があります。それは、事業を継続させることの大切さを理解していることです。
そもそも銀行や証券会社などの金融機関は、自分たちが事業継続を諦めざるを得なくなったときに、社会全体に及ぼす影響を理解しています。したがって、系列子会社となる運用会社についても、よほどのことがない限り経営を持続させる努力をします。
ところが、特定の金融機関と強い資本関係を持たない運用会社、あるいは金融機関以外の資本によって設立されている運用会社の場合、この点の信頼性がやや脆弱です。赤字決算が続いて債務超過に陥るリスクが生じたときに、何が何でもバックアップしてくれる存在の有無は、事業の継続性だけでなく、その運用会社を信じてファンドを購入した受益者の運用の継続性にも、悪影響を及ぼします。