はじめに
1.資産運用業について
資産運用業についてでは、日本と世界の大手資産運用会社の運用受託残高や営業利益を比較すると未だに差があるとしています。この30年間で、世界の大手資産運用会社が大きく成長した一方、日本は長らく続いたデフレ経済のマイナス影響が成長を阻んだことがわかります。
新NISA開始以降、日本の資産運用会社の多くは、公募投信やETFの資金流入額が増加しているので、今後ますます国民の「貯蓄から投資へ」の行動変容が資産運用会社の成長に必要なのではないかと考えます。
筆者の興味を引いたのは、「家計によるグローバル資産への投資」に関する記載です。家計の安定的な資産形成のためには、海外企業やグローバル経済の成長を取り込む観点や、地理的な分散投資の観点から金融資産の一部をグローバル資産に投資をすることは否定するべきものではないとしつつ、国内企業が成長に必要な資金を確保していくことも重要であるとしている点です。
さらに国内企業が成長に必要な資金を確保していくために、コーポレートガバナンス改革などを通じ、内外投資家から選ばれるよう稼ぐ力を磨き、投資対象としての魅力を高めていくことが期待されている、と続けています。
考えてみれば、私たちは海外企業の情報より国内企業の情報の方がとりやすいはずですし、事業の成長の可否を身近に感じ投資対象とすることは自然なことのように思います。しかし、現実的には「オルカン」という言葉が大きなパワーを発揮し、世界株式へ大きな資金が動いているのが現状です。
もちろん国際分散投資の考え方はとても大切ではありますが、自国の企業に信頼と誇りを持ち投資家として支援できる環境がもっと整ったら良いと思いました。そこには、このレポートでも指摘されるように資産運用会社が企業との対話をかさね、魅力ある商品を組成し、投資家から支持されるような努力も期待されているようです。
2.確定拠出年金サービスについて
2つめの項目である「確定拠出年金のサービスについて」では、運営管理機関のビジネスの実態について言及されています。特に企業型DCの運営管理機関については、その半数が赤字で持続可能な収支構造の確立に向け努力が必要としています。
確定拠出年金では、運用商品の選別や加入者の事務手続きなどを運営管理機関が行い、記録管理についてはRK(記録関連運営管理機関・レコードキーパー)を共同出資により4社設立しています。例えば楽天証券のiDeCoであれば、RKはJIS&Tですし、SBI証券のiDeCoでは、SBIベネフィットシステムズという会社がRKにあたります。加入者であれば、資産残高のお知らせなどで、名前は見たことがある方も多いでしょう。
複数の運営管理機関からはRKの手数料が高いために、運用商品選別にも影響が及ぼされているという意見もでているようです。一方、確定拠出年金の積立や運用の記録はとても長い期間にわたり正しく管理されなければならないため、その管理費用と度重なる制度の変更に伴うシステム改修の費用がRKの大きな負担となっているようです。
プログレスレポートでは、加入者等の最善の利益や双方のビジネスの持続性に配慮し、手数料の在り方、業務の合理化、将来的なシステムの在り方などについて議論を行うことが重要としています。
確定拠出年金ビジネスがなかなか利益を出しにくい構造であることは、以前から指摘されていました。仮にコストに見合うだけの加入者数を獲得できない運営管理機関が、ビジネスを継続できなくなったら、加入者は運営管理機関の変更を余儀なくされることになります。2017年の法改正の際、iDeCoのプランを取り扱う運営管理機関が瞬く間に増えましたから、今後金融庁には各社の運営状況を細かくチェックのうえ、加入者が不利益を被らないよう注視していただきたいと思いました。
二つ目の指摘事項としては、元本確保型商品のみで運用する割合が、企業型DCでは約20%、iDeCoでは約18%であるとしています。物価が上昇基調にある昨今、元本確保型商品で長期に運用していくと実質的な資産価値が目減りしてしまうため、運営管理機関には加入者の個々人の状況を踏まえた上で適切な商品選択がなされるように取組を強化することが重要としています。
特にネット系証券会社でiDeCoをしている場合は比較的元本確保型商品のみで運用している人の割合が低く、運営管理機関が損保や地銀・信金・労金では企業型DCよりも元本確保型商品を選ぶ割合が高いという指摘は運営管理機関の姿勢にも問題があるのではないかと感じました。
筆者が以前取り上げました確定拠出年金の「商品入れ替え」については、運営管理機関は加入者等の最善の利益を勘案した商品のラインナップの選定・提示、適時適切な商品入れ替えを行うことが重要としつつ、その際に類似の商品で信託報酬が低いなどを理由とした場合は、除外と追加をセットで行うことが望ましいとしています。ここでも加入者がよく理解しないまま不利な商品を選び続けないような配慮を運営管理機関に求めています。