はじめに
6月30日、しまむら(8227)、三陽商会(8011)、アダストリア(2685)のアパレル3社が2026年2月期第1四半期の決算を発表しました。消費低迷が続く中、アパレル業界の現状を映すように、3社の決算は明暗が分かれました。特に注目されたのは、決算発表直後の株価反応。しまむらだけが上昇し、他の2社は下落しました。この違いは、いったいどこにあったのでしょうか?
しまむらだけが「増収増益」
決算発表で好調さを際立たせたのは、しまむらでした。売上高は1,683億円(前年同期比+2.4%)、営業利益は153億円(+5.0%)と、四半期ベースで過去最高を更新。PB(プライベートブランド)やインフルエンサーとのコラボなど、商品・販促の両面でヒットを重ね、利益も順調に積み上げました。5月は、週末を中心に雨量が多く、夏物衣料の販売には、厳しい天候が続く中、商品力と販売力の力技でプラスに持っていったのはさすがといえます。
一方、三陽商会は売上高145億円(-5.7%)、営業利益はわずか3600万円(-95.1%)と大幅減益。売上の不振に加えて、在庫処分のためにセールを強化したことで、利益率も悪化しました。当社は6月30日の取引時間内の11:00に決算発表を行いましたが、その直後から株価は12%ほど急落し、出来高は前日の約20倍もできていますので、投資家のがっかり度合いが分かります。
アダストリアは売上高こそ774億円(+4.7%)と増収だったものの、広告宣伝や設備投資を積極化したことで、営業利益は56億円(▲6.8%)と減益に。成長投資を継続する姿勢を見せた一方で、短期的な利益の落ち込みが嫌気された形です。
消費環境の逆風下で問われる「即応力」
3社の明暗を分けた背景には、消費者心理の変化があります。物価上昇により家計負担が増す中で、消費者は節約志向を高め、「価格に見合う価値」をより重視するようになっています。衣料品も例外ではなく、価格と品質、使い勝手のバランスが問われる時代です。ちなみに直近発売された会社四季報夏号でも、記事欄に「節約志向」の文字が目立っており、コスパがよい商品を提供する企業には、追い風となっているようです。
しまむらはこの需要に応える形で、PB商品を強化し、PB比率を24.9%まで引き上げています。特に「FIBER DRY」が堅調に推移し、「ヘビロテ」「ラクっと!」「どこでもっと!」「活き活きラボ」など機能性・価格・デザインを兼ね備えた商品群が堅調に売れ、さらに地域別の販売戦略やSNS活用も奏功しました。ちなみに「活き活きラボ」の姿勢サポート下着は販売開始から1ヶ月で 50,000着を突破の大ヒット! 客数・客単価ともに前年を上回るなど、実需をしっかり取り込んだ形です。
対照的に、三陽商会は百貨店依存のビジネスモデルが響きました。百貨店売上が4カ月連続で前年割れとなり、消費マインドの冷え込みが直撃。粗利率改善を目指した取り組みはあったものの、在庫処分により値引き販売が増え、結果的に利益はほぼ消失しました。
実際、同日に決算発表をした高島屋(8223)の2026年2月期第1四半期は、国内百貨店事業の売上が前年同期比8.6%減、営業利益は44.2%減と大幅な減益に直面しました。高額品需要やインバウンドが一巡し、国内顧客も物価高の影響で消費を控える傾向が見られ、百貨店全体の構造的課題が露呈しています。髙島屋も会見資料で「前年の高額品駆け込み需要の反動が想定以上」とし、特にインバウンド売上は前年同期比で約30%も落ち込んでいます。
このような状況で百貨店依存型の三陽商会が販売チャネル面で苦戦するのはある意味必然といえます。中期的には販路の多様化や自社ECの強化が課題となるでしょう。
アダストリアは、広告宣伝費や旗艦店への投資を積極化。成長戦略としては評価されるものの、コスト先行型の構造が一時的な減益につながりました。特にECモール「and ST」への出店費用や新規事業投資が重しとなり、市場からは「先行き不透明」と判断された可能性があります。