はじめに
郊外の一戸建てからの住み替えを考えたAさん夫婦(70歳)の選択
Aさんの事例を見てみましょう。Aさん(70歳)夫妻は、郊外の一戸建てで暮らしていましたが、年齢とともに生活の不便さが増し、住み替えを検討するようになりました。近くのバスは減便され、車がなければ通院や買い物も難しい環境です。加えて、広い家の光熱費は月2万円を超えることもあり、年金生活には大きな負担となっていました。
住み替え先の候補に挙がったのは、日常の利便性が高く支援サービスも届きやすい立地のマンションでした。しかし、住み替えには資金面でのハードル、夫婦それぞれの思いが立ちはだかりました。
住宅ローンは完済していたものの、査定額は約1,000万円。夫妻が期待していたよりも少なく、修繕積立金等のマンション特有の費用負担も考慮に入れると、買える物件はかなり限られることがわかったのです。
特に妻のBさんは、空間が狭くなることや友人との距離ができることに不安を感じていました。Aさんは将来的に在宅介護を希望しており、Bさんも支えるつもりでいましたが、元医療職のBさんは、家族が介護を担う負担の大きさも十分に理解していました。
最終的に、夫妻は「無理に住み替えない」選択をしました。まずは家中の断捨離からスタートし、家具の配置を変えて生活動線を短くし、居住スペースをあえて縮小しました。電気事業者やガス事業者の見直しも行った結果、月に約1万円の光熱費が減り、タクシー代をまかなえるようになりました。
さらに自動車を手放し、年間約20万円の自動車の維持費が浮いたことで、今では年に数回夫婦でバスツアーを楽しんでいます。
住み替え後の暮らしに納得できることが大切
住み替えには、新しい可能性がある一方で、金銭的・心理的なリスクも伴います。だからこそ、「この選択をしてよかった」と自分で納得できることが、何よりも大切です。
住み替えの判断は難しいです。もし今住み替えに迷われているのなら、Aさんのように「住み替え後の暮らしを想定しながら、今の住まいでできることから変えてみる」というアプローチもひとつでしょう。
Aさん夫妻のように、住み替えることなく暮らし方を見直すだけで、以後の暮らしに安心感を得られるかもしれません。