はじめに
当コラム2月末の記事「巳年相場の傾向をチェック」にて、2025年=巳年は「株式相場の重要な節目になりやすい」とお伝えしました。株式相場は4月に「トランプ関税ショック」で一時急落したものの、米S&P500と日経平均株価ともに史上最高値を更新するなど、ここまで好調に推移しています。今回は、9月の日米重要イベントを中心に、年内のスケジュールをチェックします。相場の転機になり得るイベントを見過ごさないように注意しましょう。
パウエル議長は予想以上にハト派?
2025年8月、日経平均株価は12日に2024年7月の高値を上抜け、史上最高値を更新しました。買いの主体は外国人投資家。外国人投資家は、4月第1週から7月第4週まで17週にわたって日本株を買い越し、日本株の急反発をけん引しました。この間の買い越し額は約6兆1400億円です(翌7月第5週は売り越しで買い越し期間は17週でストップ)。
8月は、日米の株式相場にとって重要なイベントが2つありました。ひとつは、22日に米国で開催された国際的な金融・経済シンポジウム、通称「ジャクソンホール会議」。毎年夏に開かれる同会議は、世界各国の中央銀行のトップや金融関係の要人、著名経済学者やエコノミストらが集まる、世界的に注目度の高いイベントで、日銀の植田和男総裁も参加しました。
世界の金融関係者の耳目を集める同会議ですが、今回はパウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長が、足元の金融政策に対して、どのようなスタンスや見通しを披露するかに注目が集まっていました。そして、パウエル議長は「労働市場が安定することで、政策スタンスの変更に進むことが可能になる」と述べたうえで、「現在の政策は景気抑制的」と発言。一連の発言は、マーケットに「パウエル議長は予想以上にハト派(金融緩和に積極的)」との印象を与えたようです。
なかなか利下げへ踏み切らないパウエル議長に対して、トランプ大統領はパウエル議長を「Mr.Too late(行動が遅すぎる男)」と呼ぶなど、ことあるごとに名指しで批判。利下げを行うよう露骨に圧力を掛けています。この行為に対して、「中央銀行の独立性は保たれるべき」と世界中で批判の声が高まっていますが、FRBが利下げのボタンを押す準備は整いつつあることは確かでしょう。
エヌビディアの業績は順調に拡大も株価は下落
8月の重要イベントのもうひとつは、8月27日に発表された米半導体大手エヌビディアの第2四半期決算です。この決算がなぜ重要であるかは、ご存じの方も多いでしょう。同社の時価総額は4兆2330億ドル(約622兆円、8月29日現在)で、時価総額ベースでは断トツで世界トップの座に君臨する企業。同社の決算は、世界のハイテク銘柄の株価動向に大きく影響を与えるだけに、ハイテク株の比重(寄与度)が大きい日経平均株価の命運を握っているといっても過言ではないからです。
今回の決算では、4-6月期の売上高が467億ドル(前年同期比56%増)と、四半期ベースで過去最高を記録しました。それまでの過去最高記録は、直前の四半期(1-3月期)の441億ドルです。売上高、最終利益ともに市場予想を上回って着地しました。また、同時に発表した第3四半期(8-10月期)の売上高の見通しについても、540億ドルと市場予想(530億ドル程度)を上回る数字を打ち出しています。
ところが、市場はこの好決算にほとんど反応せず、決算発表後の株価は上がるどころか逆に若干の下落となっています。同社の主力であるデータセンター部門の収益が、市場予想をわずかながら下回ったことが嫌気されたもよう。エヌビディアに関しては、マーケットは異常ともいえるほど期待を抱いており、「この程度の内容では積極的に買うレベルではない」と判断されたのでしょう。中国への出荷を巡る不透明感が浮上したことも懸念されたようです。
市場の期待は若干下回ったとはいえ、「同社の事業はおおむね順調」と確認できたことはプラス材料。相場の波乱要因にはならなかったため、投資家はひとまず胸をなでおろせたのではないでしょうか。第3四半期(8-10月期)の発表は11月中旬。同社の決算は引き続き要チェックです。
9月5日発表の米雇用統計とその後の政策金利見通しは超重要!
先ほど、「FRBが利下げのボタンを押す準備は整いつつある」とお伝えしました。これを前提として、9月以降のスケジュールを見てみましょう。
まず、目先でチェックしておくべきなのは、9月5日発表の米雇用統計(8月分)でしょう。FRBの目標は、「最大雇用の促進(安定したインフレ率を維持しながら最高水準の雇用を確保し、失業率を最低に抑えること)」と「物価の安定」。これはFRBの公式サイトに明言されています。足元の米国のCPI(消費者物価指数)は、トランプ関税による上昇圧力はあるものの、2024年半ばからほぼ2%台で安定しています。
雇用統計に関しては8月1日発表の7月分が予想を大幅に下回り、労働市場の悪化が顕著となりました。重要指標を見ると、GDPや消費支出は強めの内容になっている一方、ISM製造業景況指数やミシガン大学消費者信頼感指数は弱含むなど、強弱が拮抗している状態。もし、9月5日の雇用統計が7月分に続いて悪い数字が出てくるようであれば、9月16・17日に開かれるFOMC(連邦公開市場委員会、米国の金融政策を決定する会合)で、FRBが利下げに踏み切る可能性はグッと高まりそうです。
前述のジャクソンホール会議において、パウエル議長がハト派と捉えられる発言をしたことで、米国相場は急伸しました。つまり、米国市場はすでにある程度は9月の利下げを織り込んだ状態です。それにも関わらず、もし利下げが行われないようなら、米国相場は急落する公算が大きいでしょう。ただし、利下げ幅が小幅の0.25%となるのか0.5%となるのか、FOMCメンバーによるドット・チャート(政策金利の見通し)がどの程度、年内の追加利下げを示唆するのかによって、相場の振れ幅が変わってくるでしょう。いずれにしても、次回の雇用統計の注目度は非常に高いといえます。米雇用統計は、日本時間で9月5日の21時30分ごろに発表される予定です。
ドル/円相場に関しては、やや円高方向に傾いているものの、明確なトレンドは見えていないことを考えると、市場は9月の利下げに懐疑的なのかもしれません。