はじめに

自分にとってのサイドFIRE目標額を見直してみる

そこで、相談者にお勧めしたいのは、もう一度、ご自身の目標額や年間支出額など資金計画を検討してみることです。

まず、いただいたデータには社会保険料や税金などの負担分が計上されていません。とくに、大きいのが社会保険料です。

会社員時代は給与天引きで半分を会社が負担していて、自己負担分は給与総額の約15%程度。退職後は国民年金と国民健康保険(介護保険料)を全額自分で支払うことになり、国民年金だけでも、月額:17,510円(令和7年度)で、年間21万円以上です。そして、厚生年金加入期間が途切れると、将来の老齢年金受給額も減少します。

ところで、「バリスタFIRE」というのをご存じでしょうか?米国のスターバックス・コーヒーなど、大企業の中には、パートタイムの従業員にも健康保険(医療保険)を提供している企業があります。米国では国民皆保険制度がないため、健康保険加入を目的にパートタイムで働くスタイルをがバリスタFIRE。サイドFIREよりも、自分の時間や生活を最優先に考え、給料よりもストレスの少なさを重視した仕事を選ぶのが特徴です。

米国に限らず、たとえ退職金が少なくても、将来の年金や休職時の所得保障など、社会保険加入を続ける価値は大きいということは忘れてはいけません。

そして、これから老後に備えて重視すべきは、「医療・介護」「住居」「見守り」の3点です。独身者の場合、家族のサポートを得にくいため、自助努力での備えが不可欠になります。目標額に高齢期の医療費として200~300万円、介護費用として500~1,000万円、住居費が生涯賃貸なら、保証人代行や身元保証サービスの検討しておく必要があるでしょう。サービス内容にもよりますが、50万円〜150万円程度が相場です。もちろん、「いくらあれば足りるか」ではなく、実際には、暮らし方をシンプルにして工夫すれば「十分に足りる」生活を実践することもできます。

いずれにしても、生活費、医療費、余暇の費用等をシミュレーションし、自分にとっての「最低限の安心ライン」を知ることが重要なのです。

働くことは「生活の糧」であると同時に「人生の糧」

最後にお伝えしたいのは、働くことの意味です。

私は20代後半でFPとして独立しましたが、その前に会社員を辞め、しばらく世界一周旅行に出たことがあります。会社員として忙しく働いていた頃には、とにかく自由に好きなだけ旅行がしたいと思っていました。念願かなって、数カ月は楽しかったのですが、そのうち、時間を持て余すようになってしまいました。一人旅ですから、一緒に食事をしたり、おしゃべりをしたり、誰かと楽しい時間を共有することもできません。

そして気づいたのです。会社員時代の旅行が、あれだけ楽しかったのは、仕事という日常的な「ケ」の時間があってこそ。海外旅行という非日常の「ハレ」が大切に思えたのだということを。日本人特有なのかもしれませんが、「ケ」の時間を丁寧に過ごすことが心身のバランスを整えることにもつながると考えています。

そして、もう一つは、前述した40歳のときの乳がんに罹患した時の経験です。近年、国は、がんや脳血管疾患、心疾患などの重篤な病気になった方に対する治療と仕事の両立支援に注力しています。私も医療機関等で患者さんへの就労支援を行う一人です。

病気になっても働き続けたい理由は、もちろん仕事が生活するための“生活の糧”であるから。しかし、相談を受けているとそれ以上に、「病気になった自分も認められたい」「仕事を通じて人や社会に関わりたい」という根源的な承認欲求があることを痛感します。まさに、仕事は、生きがいややりがいといった“人生の糧”でもあるのです。

最近、以前に比べてFIREが下火になり、再び就職して「FIRE卒業」という言葉を聞くようになったのも、このような理由があるのではないでしょうか?

相談者は、まだお若いですし、人間関係にちょっと疲弊されておられるなら、一度、実際にサイドFIREを実行してみるのも一つです。可能であれば、今の職場を辞めずに、配置転換や部署異動などで実現できないか考えてみてください。

FIREを成功させるポイントは、資産額よりも人生の軸をどう描くかにあります。「どんな働き方なら心地よいか」「どんな時間を大切にしたいか」―その軸を明確にすることが、長期的な幸福につながるはずです。

連載「みんなの家計相談」でお悩み募集中!読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのFPが答えます。相談はこちらから。

「私、同年代より貯蓄が上手にできていないかも…」お金の悩みを無料でFPに相談しませんか?[by MoneyForward HOME]

この記事の感想を教えてください。