はじめに

「投資の神様」、「オマハの賢人」、「史上最強の投資家」など、数々の異名を持つウォーレン・バフェット。第一線を退くことを発表した今でも、世界中の投資家がバフェットの言動に注目しています。バフェットが日本の5大商社に投資していることは広く知られており、購入時から5大商社の株価が大きく上昇したことも、多くの投資家が知る事実です。今回は、バフェットが「次に狙う日本株は何か」について、過去の傾向と現状を踏まえて考察していきます。


バークシャーは日本の商社株を着実に買い増し

バフェット率いる米バークシャー・ハサウェイが日本の商社株を買い始めたのは、いまから約5年前の2020年8月。三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅、伊藤忠商事の「5大総合商社」の株式を、それぞれ5%超購入したことが明らかになりました。当時、日本の商社株買いについて、バフェットは「長期保有を前提とした投資であること」や「将来的に保有比率を9.9%まで引き上げる可能性があること」との声明を発表。これ以降、バークシャーは毎年のように円建ての債券(サムライ債)を発行し、その度に5大商社株を買い増してきました。

2025年8月、バークシャーは三菱商事の株式保有比率が3月の9.74%から、8月28日時点で10.23%まで上昇したことを発表。同年2月、当初発表していた保有比率の上限9.9%を「適度に緩めることを5大商社と合意した」と打ち出しており、8月の発表はこの合意が着実に実行されていることを証明しています。

そして2025年11月、日本の株式市場で、バフェットの動向に再び注目が集まりました。バークシャーが総額2101億円の円建て債発行を発表したのです。実は、バークシャーは4月にも900億円の円建て債を発行しましたが、これまでと比べて発行額の規模は過去最少。市場では、2024年の発行額が過去最高だった反動もあり、「2月の合意もあったし、また商社株を買い増すのだろう」との見方が主流でした。

バフェット自身は投資の第一線から退く意向

ところが、11月の発行によって、ここ数年は表面化してこなかった「もしかしたら、商社株以外の日本株購入を見据えているのかもしれない」との見方が再び浮上しました。日本の5大商社株の株価は、ちょうどバークシャーが購入を始めた2020年を底に急上昇。三菱商事の株価は698.2円から2025年10月には3778円まで5.4倍、三井物産は同6.1倍、住友商事4.4倍、丸紅9.1倍、伊藤忠5.0倍になっています。同期間のTOPIXの上昇率(1199ポイントから3389ポイント)2.8倍を大きく上回るパフォーマンスを見せていることから、“バフェット効果”がいかに大きいかが改めて示されました。

仮に、バークシャーが5大商社株以外を購入したことが明らかになれば、対象となった銘柄が大相場に発展するのは間違いないでしょう。対象銘柄以外にも連想買いが働き、そのセクター全体、引いては日本株全体を大きく底上げする可能性さえあります。それだけ、バフェットが株式相場に与える影響は大きいのです。

バフェットは2025年の年末、約60年もの間率いてきたバークシャーのCEO(最高経営責任者)を退き、副会長のグレッグ・アベル氏が後任につくことを表明しました。退任後は「静かにする(going quiet)」ことや、寄付などの慈善活動を強化する旨を伝えています。しかし、バフェットの膨大な影響力を考えると、投資の第一線からは身を引いたとしても、バークシャーへの助言などを通して影響力を発揮し続ける可能性は決して小さくないと思われます。

バフェットが買う条件とは?

では、いったい「バフェットが次に狙う日本株」はどの銘柄、どのセクターになるのでしょうか。筆者は、金融関連株、中でもメガバンク株となる可能性が高いと見ています。前述したように、バークシャーは5大商社株の保有比率の上限を9.9%(10%未満)から引き上げました。これを考えると、11月の円建て債発行は「商社株の買い増し」に充当する可能性が最も高いと思われます。しかし、もし「別の日本株を購入」したことが判明すれば、大相場に発展する可能性がかなり高いことを考えると、いまそのシナリオを考察してみることは、決して無駄にはならないでしょう。

バフェットの次なるターゲットがメガバンクになると考える理由は何か。まず、バフェットは、基本的に①自分が理解できるビジネスを手掛けている、②長期的な成長が見込める、③競争力が長期間持続する、④本来価値より株価が割安、⑤財務が良好という、5つの条件に当てはまる銘柄を購入する傾向があります。その他、「経営陣が優秀である」ことや、「高ROE」なども条件として挙げられますが、バークシャーの保有株リスト(ポートフォリオ・トラッカー)を見ると、必ずしもすべての条件に当てはまる銘柄だけを購入するとは限らないことがわかります。

これは、現在のバークシャーのポートフォリオの中で20%超と最も大きい比率を占めるのが、これまで「自分が理解できないビジネス」であることを理由に投資を避けてきた、ハイテク株の代表格、米アップルであることを見てもわかるでしょう。また、同社のポートフォリオの規模を考えると、「時価総額が大きい」ことも条件として挙げられます。購入となれば最低でも数千億円規模になるため、時価総額が小さい銘柄だと、それだけで相場がパニックに陥りかねません(ただし、バークシャーは未公開株への投資を米証券取引委員会に対して、一部のポジションを非公開にするよう要請するなど、購入を機密扱いにするケースもあります)。

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