はじめに
●2. 税金の基本を理解し、年末の行動にどう活かすか

年末に必ず押さえたいのは税金です。とてもシンプルだけれど意外と誤解されやすいポイントとして、「評価益には税金がかからず、税金がかかるのはあくまで確定した利益だけ」という点があります。
上場株式やや投資信託の売却益、配当・分配金には、原則として20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の税率が適用されます。
ただし、課税対象になるのは確定利益だけで、「含み益」の段階ではいくら評価額が増えていても税金は一切かかりません。いつ利益を確定するのかは投資家自身が決めることができ、その選択の積み重ねが最終的な税負担や手取りを左右します。
暦年で区切られる日本の税制と年末の重要性
日本の税制では、上場株式等の譲渡損益や配当所得の計算は暦年単位、つまり1月1日から12月31日までの1年間で区切られます。
この期間内での利益と損失を合計し、確定申告(特定口座の源泉徴収ありの場合は原則不要ですが、あえて申告することもできます)を行うことで、最終的な税額が決まります。
そのため、12月31日までに行った売買や配当の受け取りは「今年分」として集計されますが、1月1日以降の取引はすべて「翌年分」として扱われます。
12月中に損失を確定させたり、利益確定のタイミングを調整したりしなければ、その年の損益はもう動かせません。
●3. 損出し・損益通算・繰越控除をどう判断に組み込むか
株式や投資信託の損失が出た場合、その年だけで控除しきれなかった部分は、確定申告をすることで翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の株式等の売却益や配当等と相殺することができます。
この「損失の繰越控除」は、適用を受けるために毎年の確定申告が必要になるため、「今年は申告しておくべきか」を年末までに確認しておきたいポイントでもあります。
損益通算が手取りに大きく影響
損益通算は「利益と損失を相殺して、課税対象となる利益を小さくする仕組み」です。
例えば、A株の売却で50万円の利益、B株の売却で30万円の損失が出たとします。この場合、50万円−30万円=20万円が課税対象になり、税率20.315%をかけるとおおよそ4万円の税金です。
もし損益通算を行わず、A株の利益50万円だけが課税対象になると、10万円強の税負担になります。同じ1年間の売買でも、「損失をどう活かすか」で手元に残る金額は大きく変わります。
損出しをどう使い分けるか
ここで出てくるのが損出しです。損出しとは、税金対策のためにあえて含み損銘柄を売却し、損失を確定させることを指します。
・今後も持ち続けたい銘柄は「買い戻し前提のテクニカルな損出し」
・投資根拠が崩れた銘柄は、この機会に見切る「整理のための売却」
このように役割分担して考えると、年末の売買判断も整理しやすくなります。
通算できる損失・できない損失の違い
上場株式や公募株式投信、ETF・REITなどの売却損は、同じ区分に属する売却益や、申告分離課税を選択した配当等と通算できます。
ただし、FX取引や仮想通貨、先物、オプション取引の損失とは相殺できませんのでご注意ください。
損失繰越控除の注意点――“毎年申告”が必須
上場株式等の譲渡損失は、確定申告を行うことで、翌年以降3年間にわたって、同じく上場株式等の譲渡益や配当等と損益通算することができます。 ただし、この繰越控除は「確定申告をしなければ使えない」「3年間継続して申告しないと権利を失う」という条件があります。
「損失が出ている年は申告しなくてもいいか」と軽く考えてしまうと、実は今後3年間の節税チャンスを自ら捨ててしまうことになりかねません。
そのため、年末の段階で、
・今年の損益はどれくらいか
・損失を繰り越した方が良いのか
・来年どの程度の利益が見込めるのか
を整理し、「確定申告をしておいた方がいいか」判断することが大切です。
年末の利益確定は、「節税のために売る」という側面だけでなく、「来年に向けてリスクを整える」という面でも優位性があります。自分のリスク許容度や投資戦略を見直しつつ、考えてみてはいかがでしょうか。