はじめに

定年が近づくにつれ、退職金の使い道をあれこれ考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、退職金にかかる税金の仕組みを知らないとせっかくの計画も台無しになってしまいます。

今回は退職一時金、DB(確定給付企業年金)、DC(企業型確定拠出年金)と複雑化する退職金と税金について整理します。


退職金の「3つの入り口」と税制の基本

退職金といえば「定年時にまとまったお金を一時金で受け取るもの」という認識が一般的かと思いますが、最近は退職一時金の他、DB(確定給付企業年金)とDC(企業型確定拠出年金)を退職金制度として整備する会社も増えています。

さらにここにiDeCo(個人型確定拠出年金)が加わります。こちらは、任意加入の積立制度であるにもかかわらず、定年期に受け取りをすると「退職金」として扱われ、金融商品への課税とは異なる税制が適用されます。

上記における税金は「一括」で受け取ると「退職所得控除」、「分割」で受け取ると「公的年金等控除」が適用されるのが基本です。

ただし、一定期間に前後して複数を「一括」で受け取ると、ひとつの退職金とみなされ、重複する期間の退職所得控除の一方が打ち消されます。また複数を同時に「分割」で受け取ると、合算されひとつの公的年金等控除を使うことになります。

「退職所得控除」を左右する勤続年数の数え方

退職一時金は、勤続年数により「退職所得控除」を計算します。勤続20年までは1年あたり40万円、20年を超えた期間については1年あたり70万円で計算します。つまり、勤続35年で退職一時金を受け取ると1850万円が退職所得控除となるため、そこまでの金額は税金を払うことなく受け取ることができます。

退職所得控除を計算する上で使われる勤続年数は「切り上げ」です。35年と1ヶ月の勤続であれば、勤続年数は36年とカウントされ退職所得控除は1920万円になります。

例えば勤続36年、退職一時金2000万円であれば、1920万円を差し引くと残りが80万円です。税金はこの80万円にはかけられず、その2分の1、つまり40万円が課税対象となります。

退職金の所得税はその他の所得と切り離されて課税される「分離課税」です。先ほどの退職所得40万円には、5%の所得税が課され納税額は2万円です。また住民税は一律10%ですから4万円です。

退職所得控除は、長く働けばその分大きな控除を受けられるという仕組みが今の実態に合わないのではという議論が続けられているところから、今後この計算は変更される可能性があります。

受け取る「時期」をずらすという選択肢

退職一時金と同年にDC(企業型確定拠出年金)を一括で、またはiDeCo(個人型確定拠出年金)を一括で受け取ると、「ひとつの退職金」とみなされるため、退職一時金の退職所得控除を計算する上での勤続年数と加入期間が重なる時期については退職所得控除が打ち消されてしまいます。そのため、退職一時金の金額によっては、同時期に受け取るDCやiDeCoが使える退職所得控除が少なく、あるいはなくなってしまい課税が大きくなります。

ひとつの退職金とみなされる受け取りタイミングは、「同年」の他、先にDC・iDeCoを受け取る場合はその後「9年以内(2026年より)」、後でDC・iDeCoを受け取る場合はその前「19年以内」です。それ以上受け取り時期が空く場合は、それぞれ別の退職金として重複期間があったとしても打ち消すことなく退職所得控除を計算します。

一方DC・iDeCoだけは、受け取り方法を自ら選ぶことができるので、課税を抑えるための工夫としては、DC・iDeCoを退職一時金の「翌年以降」に一括で受け取る選択肢もあります。

例えば、60歳で退職所得控除を全額消費して退職一時金を受け取り、DC・iDeCoは翌年以降に一括で受け取ります。その際、使える退職所得控除がなくとも、最低80万円の退職所得控除が認められるので、その上で2分の1を分離課税すると同年で受け取るより節税ができます。

退職一時金とDC・iDeCoは、「退職所得控除」を最大限活用して可能な限り一括で受け取ることがポイントです。なぜならば、税金もさることながら、一括で受け取る退職金には、社会保険料がかからないため、その分手取りの減少を抑えることになるからです。

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