はじめに
局面が変化する前に利益確定を進めておけばダメージは小さくできる
—— 強い相場からの局面変化に、投資家はどう対応したらよいでしょうか?
まず、普段から分散投資を実践し、長期投資を志向している投資家であれば、あわてて保有株や投信を全売却するようなことは得策ではありません。下落の初期段階で売却し、大底で買い戻すようなことが可能であればそれがベストですが、実際にはそんなに都合よく立ち回ることは難しいと考えてください。現実にはむしろ、損失が大きくなってから売却し、回復局面での買い戻しも遅れてしまうことがほとんどで、そうなれば多額の損失を確定させて、戻りの上昇幅も取れないという最悪の事態に陥ってしまいます。
NYダウの長期チャートを見れば一目瞭然ですが、アメリカ株は長期的には右肩上がりです。リーマンショックの直前に投資して大きな含み損を抱えてしまった人でも、今ではその含み損をはるかに上回る利益を出せています。これは長期で続けていれば利益を出せる確率が大きいことを意味しており、リタイアまでに時間が十分ある若い世代は、目先の下落にひるむことなく投資を続けて大丈夫だと考えています。
—— とはいえ、なるべく損失は抑えたいという人もいるでしょう。こうした人に何か方法はあるでしょうか?
下落局面に入ってから慌てるのではなく、今のうちから少しずつ出口を探っておくことをおすすめします。今、考えるべきは「いかに投資を継続しつつ、利益を確定するか」ではないでしょうか。一見、矛盾しているように思えるかもしれませんが、いくつか方法が考えられます。
たとえば、少しずつ売却して現金化しながら様子を見るという方法です。自分で何度も換金するのは少し面倒ですが、分配型の投資信託に乗り換える手があります。毎月分配型の投資信託は投資効率としては劣りますが、分配金は事実上の利益確定や投資回収、言い換えれば保有リスクの減少になるので、自動で少しずつ現金化するツールと考えると大変便利な商品です。全売却するわけでないので、上昇相場が続いたとしてもその果実を逃さず得ることは可能です。
また、業種ごとで分散投資している人であれば、ITやロボティクス、半導体関連などで特に大きな利益が出ているのではないでしょうか。これらの成長セクターは下がる時の下落幅も大きいので、相場が強いうちに一部売却して利益確定し、高配当銘柄や景気の影響を受けにくいディフェンシブ銘柄に乗り換えるのもいいと思います。
高配当株式は、利益を株主に積極的に還元する分、利益を設備投資に回すような株式に比べ、利益や株価の高い成長性は期待しづらいわけですが、逆に言えば、より多くの配当を出すことで、株主に利益確定を促していると考えることができます。
—— 日本の個人投資家にとって、アメリカ株は投資先としてどう考えるとよいでしょうか?
アメリカは世界経済を牽引していく存在であることは、今も昔も、そして将来も変わらないと考えています。成長著しい新興企業もあれば、何十年も増配を続ける高配当株もあり、投資の目的や相場環境に応じてスイッチすることも可能です。
また、投資を通じてアメリカの株式市場とつながることで、日本だけに投資していては気づきにくい世界経済の変化やテクノロジーの進歩を敏感にキャッチできるのではないでしょうか。特に40代以下の若い世代の投資にはぜひ加えておきたい投資先です。
気に入った個別銘柄があればそこに投資するのもいいですが、投資信託やETFを活用した分散投資や積み立て投資を資産運用の中心に置くのもおすすめです。実際に、アメリカの個人投資家の多くは若い時期からコツコツと積み立てを継続し、資産を形成しています。積み立て投資はまとまった収入がない人や投資タイミングに迷う人でも始めやすく、大きな損失を出しにくい投資です。資産形成ツールのひとつとして取り入れてみてはいかがでしょうか。