はじめに

住宅ローンの申込手続きの中で、団体信用生命保険(団信)とともにオプションとして「がん団信」を検討する場面は、多くの方が経験するものです。

「日本人の2人に1人ががんになる」といわれているものの、万一の安心と引き換えに上乗せ金利という追加コストが発生するため、「本当に付加すべきか?」と迷う方も少なくありません。

さらに、団信の選択は原則として住宅ローン契約時にしかできず、後から簡単に変更することができません。だからこそ、オプションの付加にあたっては感情ではなく判断基準が必要です。

本記事では、後悔しないためのがん団信加入可否の判断軸を、FPの視点で解説します。


がん団信で陥りやすい「3つの考え方のズレ」

まずは、がん団信の加入判断において生じやすい、3つの考え方のズレを整理します。

①時間軸で考えていない
がんの罹患リスクは加齢とともに高まる一方、がん団信の保障額は住宅ローン残高に連動して減少していきます。この時間軸を前提にせずに、「将来の安心感」だけで判断すると、合理性を欠いた選択になりやすいです。

②保障機能を理解していない
がん団信は住宅ローン債務を消滅させる仕組みであり、民間のがん保険は高額な治療費や収入減少などに対し、生活再建を支える仕組みです。この違いを整理しないまま、「がん団信に加入するから民間のがん保険を解約する」あるいはその逆の判断をすると、本来必要な保障と実際の保障にズレが生じます。

③コスト構造を見ていない
がん団信は金利上乗せ型のため、月額増加は小さく見えがちですが、返済期間全体では長期固定コストとして積み上がります。短期的な支払感覚だけで判断すると、家計設計との乖離が生じやすくなります。

次章以降では、この3つのズレをどう修正すべきかを具体的に整理していきます。

がん団信を時間軸で考える

がんの罹患リスクは年齢とともに高まる一方、がん団信の保障額は住宅ローン残高に連動して減少していきます。つまり、「リスクは上昇するが、保障は縮小する」という逆方向の構造が存在します。

国立がん研究センターの統計データ(2021年)によると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性で63.3%、女性で50.8%とされています。ただし重要なのは、この確率が高齢期に集中して上昇する点です。

実際に累積罹患率(特定の年齢までにがんと診断される確率の合計値)を見ると、以下の通りです。

【男性】
・60代前半で約13%
・70代前半で約36%
・70代後半で約53%

【女性】
・60代前半で約17%
・70代前半で約28%
・70代後半で約36%
(国立がん研究センター・2021年)

データをみると、年齢とともに急激に上昇していきます。

一方、住宅ローンは返済が進むほど残高が減少していくため、罹患リスクが高まる年齢帯では、がん団信で保障されるローンの金額は限定的になります。

この構造を踏まえると、若年期に長期ローンを組むケースでは、がん団信の合理性は相対的に低くなる一方、高年齢期に比較的短期間のローン返済を計画する場合には、がん団信が合理的な選択となるケースも生じます。

重要なのは、「がんになる確率が高いか」ではなく、「リスクが高まる時点で、どの程度のローンが保障対象として残っているか」という視点で判断することです。

保障「量」ではなく「機能」で考える

がん団信を検討する際に、民間のがん保険との役割の違いを理解しておくことが重要です。団信とは、あくまで住宅ローンという債務を消滅させる仕組みであり、民間保険は生活再建資金を支える仕組みのため、両者は根本的に異なる機能を有します。この違いを踏まえた上で、がん団信が向いている人、民間のがん保険が向いている人の特徴をそれぞれ見てみましょう。

がん団信が向いている人
住宅ローンの借入額が大きい人、一定の資産余力がある人、教育費のピークと住宅ローン返済が重なる人などにとって、がん団信は合理的な選択となり得ます。収入減少があっても生活費が直ちに破綻する状況ではない一方、「住宅ローンという大きな固定債務が消滅すること」によって、教育費や生活設計の安定性が大きく高まる場合です。

民間のがん保険が向いている人
フリーランスや自営業者、資産状況に余裕がない人にとっては、がん団信よりも民間のがん保険の方が合理的なケースが多いです。収入減少時の公的保障が乏しく、治療費や生活費がすぐに必要になる場合には、「債務消滅」よりも「現金給付」の機能の方が実務的価値を持ちます。

重要なのは、住宅ローンを消したいのか、生活を支えたいのかという機能の視点で保障を選ぶことです。

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