心許ない積立金、「危うい」制度の現状

当初は「全損」のみの補償、上限は建物90万円、家財60万円でした。また、個々に限度額を設けても、何十万人が被災する震災となれば全体で対応しきれないため、1回の地震で支払われる保険金総額に「総支払限度額」という上限を設け、それを超えるときは個々の保険金支払いが減額されることになりました。

総支払限度額は「関東大震災クラスの地震が来ても対応可能な範囲」とされ、当初は3000億円からスタート。支払いが発生すれば、最初の100億円までは全額を民間保険会社が負担、さらに500億円までは政府と民間が半々で負担、それ以上は国が負担するという仕組みでした。これはある程度の地震の規模までは民間の積立金で対応し、大規模になったら国が対応するという制度設計で、今でもその額を変えて引き継がれています。

総支払限度額は加入者の増加や大地震の発生に伴って徐々に引き上げられ、1972年には4000億円、82年には1兆5000億円に。1995年の阪神・淡路大震災発生時には1兆8000億円でしたが、翌年には一気に3兆1000億円まで引き上げられ、2011年の東日本大震災発生時は5兆5000億円になっていました。

一方、保険料の一部は民間と政府がそれぞれに「準備金」として積み立て、地震で損害が発生すれば取り崩して再保険金として活用します。東日本大震災時は民間が約9000億円、政府が約1兆3500億円の計約2兆2500億円を積み立てていました。

しかし、東日本では過去最大の約1兆3000億円の保険金支払いがあり、前述したように負担は民間から始まるため、民間の積立金はどんどん取り崩されていきました。2016年は熊本地震と鳥取県中部地震が発生したため支出がさらに増加。民間の積立金は3200億円余り(日本地震再保険株式会社の2017年資料)と、かなり底をついてきました。

2017年現在の総支払限度額は11兆3000億円で、次に地震が起きたら政府は11兆円超まで負担しなければなりません。 しかし、政府の積立金も地震再保険特別会計に1兆3000億円余りがあるだけ。これを超える損害が発生した場合、政府は一般会計から借り入れるなどして限度額まで支払うことになっています。ただし、借入金はその後の保険料で返済するため、将来世代の負担は大きくなります。

名古屋大学減災連携研究センター長の福和伸夫教授は、近著『次の震災について本当のことを話してみよう。』(時事通信出版局)でこの問題に触れ、「インフラ復旧にも政府の多大な財政支出が必要。いざというときの保険の実態としては今、かなり危うい状況に感じられる」と指摘しています。

地震保険で「一つの地震」とみなすのは72時間、つまり3日以内に発生した地震です。しかし、過去の南海トラフ地震では数年という単位で巨大な海溝型地震や内陸直下型地震が連続発生しています。それを考えると、現在の制度での補償は極めて難しいでしょう。「南海トラフ巨大地震に対しては保険だけに頼らず、建物の耐震化を進め、被害を減らす必要がある」と福和教授は呼び掛けています。

保険以外の各種制度も「知って備える」

現在は保険だけでなく、災害後のさまざまな公的支援制度が整ってきていることも見逃してはいけません。

阪神・淡路大震災の被災者が声を上げて法整備が進んだ被災者生活再建支援制度では現在、被災世帯当たり最大300万円が支給されます。基礎支援金は使いみちが自由。加算支援金は自宅の新築や補修にも活用できます。

世帯主が亡くなった場合などに支給される災害弔慰金は最大500万円、重度の障害を受けた場合の災害障害見舞金は最大250万円です。さらに最近は、自治体が独自の見舞金を出すケースも多くなっています。

資金の支給だけでなく、ローンの免除も注目されるようになりました。

「自然災害債務整理ガイドライン」は住宅ローンなどを借りている被災者が、銀行などの金融機関と話し合ってローンの減額や免除を受けるための手続きを定めたルールです。

「破産」などの法的な手続きを適用すると、個人の信用情報として登録され、新たな借り入れやクレジットカードをつくることができなくなってしまいます。ガイドラインはそのデメリットを回避しつつ、裁判所の特定調停を利用して債務免除を受けられる手続きです。国の補助で弁護士などの専門家が無料で手続きを支援したり、預貯金など財産の一部をローンの支払いに充てず、手元に残したりすることも。東日本の被災地で「二重ローン」が大きな問題になったため、2016年4月からスタートした新しい制度です。

いずれも、自治体に「罹災証明書」の発行を申請することが手続きの第一歩であることを覚えておきましょう。

災害現場を歩くと、「お金のことは保険会社に任せている」という声もよく聞きます。しかし、被災者支援制度に詳しい岡本正弁護士は、保険以外の部分をカバーするこうした各種制度を「もともと知っているのと、まったく知らないのとでは大違い」だとして、「知識の備え」が大切であることを強調します。地震保険は国民全員が入っていてもいい制度ですが、次の震災はそれだけでは不十分なはずです。ぜひ保険だけに頼らない備えも進めておきましょう。