はじめに
NISAの損失と非課税投資枠の注意点

投資の面から見ると、NISAにはもう一つ大切な注意点があります。それは、損益通算と繰越控除ができないことです。
NISA口座で利益が出ても非課税になる一方で、損失が出た場合、その損失を特定口座や一般口座の利益と相殺することはできません。国税庁も、NISA口座内の譲渡損失はないものとみなされ、他の口座の譲渡益との損益通算や繰越控除はできないと説明しています。
これは、値動きの大きい個別株やテーマ型投信をNISAで買うときに重要です。NISAは「利益が出たときに強い制度」ですが、「損が出たときの税務上の救済はない制度」でもあります。そのため、NISAでは長期で持ちやすい資産、途中で大きく方針転換しなくてもよい資産を中心に考えるのが基本です。短期売買や値動きの激しい銘柄を頻繁に売買する使い方は、制度の良さを活かしにくい面があります。
また、新NISAでは売却した分の非課税投資枠が翌年以降に復活しますが、この点にも誤解があります。復活するのは売却時の時価ではなく、取得金額ベース、つまり簿価です。金融庁は、商品を売却した場合、翌年以降に売却した商品の簿価の分だけ非課税投資枠が復活すると説明しています。 たとえば100万円で買った投資信託が200万円に増え、それを売却した場合、復活する枠は200万円ではなく100万円です。さらに、売却したその日に枠が戻るわけではなく、翌年以降です。そのため、NISAは「売ればすぐ枠が空くので、自由に回転売買できる制度」と考えるべきではありません。
配当金や分配金の扱いにも注意が必要です。NISAでは配当金や分配金も非課税になる点が魅力ですが、投資信託の分配金を受け取る設定にしている場合、そのお金は口座内で自動的に効率よく再投資されるとは限りません。再投資する場合でも、新たな買付としてNISA枠を使うことがあります。
また、成長投資枠の対象商品にも制限があり、整理・監理銘柄、信託期間20年未満の投資信託、毎月分配型の投資信託、デリバティブ取引を用いた一定の商品などは対象外です。これは、NISAが短期的な利回り追求ではなく、長期の資産形成を目的とした制度だからです。
50代以降のNISAで考えたい三段階の出口
では、50代以降のNISAはどのように考えればよいのでしょうか。私は、出口を三段階で考えるとわかりやすいと思います。
50代から65歳前後:資産を育てる時期
まず50代から65歳前後までは、NISAを使って資産を育てる時期です。世界株、米国株、バランス型、国内外の高配当株など、自分のリスク許容度に合った資産に分散しながら、非課税のメリットを活かしていきます。この時期は、まだ働いて収入がある方も多く、相場の下落にもある程度時間で対応しやすい時期です。
60代:取り崩しの準備を始める時期
次に60代に入ったら、取り崩しの準備を始めます。資産一覧を作り、家族に金融機関名だけでも共有しておきます。いつからNISAを取り崩すのか、毎月いくら使うのか、暴落時には売却を一時停止するのか、現金を何年分持つのかといったルールも決めておきたいところです。老後資金は、運用成績だけでなく、現金の余裕によって安心感が大きく変わります。
70代以降:使いやすさを重視する時期
そして70代以降は、「運用効率」だけでなく「使いやすさ」を重視する時期です。必要に応じてNISAの一部を売却して現金化する、低リスク資産へ移す、生命保険や個人年金を検討する、家族サポート証券口座や任意後見などを整えるといった選択肢があります。ここで大切なのは、すべてをNISAのまま持ち続けることでも、すべてを保険に移すことでもありません。自分の生活費、介護費、家族構成、相続の方針に合わせて、資産を「使える形」に整えていくことです。
新NISAを老後資金に活かす二段構え
新NISAは、個人投資家にとって非常に強力な制度です。非課税期間が無期限になり、年間投資枠も拡大し、生涯1,800万円まで非課税で運用できるのは大きなメリットです。ただし、NISAは増やすには強い一方で、使う、渡す、守るためには別の設計が必要です。
「50代や60代以降でNISAを始めたいのだが、もう遅いのか」と質問をいただくこともありますが、それ以上に「何歳までリスク資産で持つのか」「認知症になったら誰が動かせるのか」「介護施設に入るとき資産判定でどう扱われるのか」「相続時に家族が困らないか」を考えて始めることが大切です。
NISAは老後資金づくりの主役になり得ます。ただし、最後までNISAだけで完結させようとすると、出口で詰まる可能性があります。だからこそ、50代からのNISAは、前半は増やす、後半は使える形に整える、という二段構えで考えるべきです。
新NISAの本当の価値は、非課税で増やすことだけではありません。増やした資産を、自分の生活にきちんと届けること、必要なときに家族が困らないようにしておくことまで含めて、初めて活きる制度だと思います。
この記事が少しでもみなさまの投資の参考になれば幸いです。
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