はじめに
160円前後で再介入を左右する円安の速度

1月には158円台で日米当局が円安への懸念を示し、1月23日にはレートチェックが実施されました。その後、7月末には164円近辺で実弾介入が行われました。
この経緯から、市場では160円前後が当局の警戒を受けやすい水準として意識されていますが、公式な防衛ラインではありません。当局が重視しているのは、為替水準だけでなく、円安が進む速度、投機的なポジションの偏り、経済実態からの乖離、市場の無秩序さです。
したがって、その水準を超えただけで直ちに介入が行われるとは限りません。一方、短期間に161円、162円と円安が加速すれば、追加介入への警戒が強まり、円買いが入りやすくなる可能性があります。
介入後の短期レンジと上下に外れる条件
介入後の短期的なドル円は、155円から160円程度が意識されやすいと考えられます。ただし、これは当局が防衛する固定的なレンジでも、機械的に算出した予測値でもありません。
155円前後は、介入後の急速な円高がいったん落ち着きやすい水準として意識されています。一方、上限付近では、再介入への警戒や利益確定のドル売りが出やすくなる可能性があります。
ただし、155円を大きく下回るために、日銀の追加利上げや米国金利の低下が必ず必要になるわけではありません。米国の景気減速、雇用統計やインフレ指標の下振れ、株式市場の急落、地政学的リスク、投機的な円売りポジションの巻き戻しなどによっても、円高が進む可能性があります。
反対に、米国金利の上昇、日銀の利上げ後ずれ、財政政策への懸念、リスク選好の回復などが重なれば、想定レンジを上回って円安が進む可能性もあります。
IMF基準と介入回数をめぐる誤解
注意したいのは、「3営業日以内の介入は1回と数える」「半年間に3回まで」といった説明を、IMFが定める介入回数の上限として扱うことです。公表されているIMFのルールや日米財務相共同声明を確認する限り、介入を3回までに制限する明確な数値ルールは確認できません。
日米が確認しているのは、為替レートは原則として市場で決まり、介入は過度な変動や無秩序な動きに対応する場合に限ること、競争上の利益を得るために為替レートを操作しないこと、介入実績を少なくとも月次で公表することです。
したがって、ドル円が警戒されやすい水準を超え、短期間で一方向に急騰するのであれば、当局が「無秩序な動き」と判断し、複数回介入する可能性はあります。実際に三村財務官は今年5月、為替介入について、IMF基準では回数を制約するルールはないとの趣旨の発言もしています。
そのため投資家としては、特定の日数や回数を数えてしばらく介入はないと判断しない方がよいでしょう。
ドル円を左右する4つの確認材料
今後のドル円を考えるうえでは、日米金利差だけでなく、複数の要因を確認する必要があります。
米国のインフレ率と雇用情勢
米国の利下げ観測が強まれば、米国金利の低下を通じてドル安・円高が進む可能性があります。反対に、インフレが高止まりし、米国の高金利が長期化すれば、ドル円の上昇圧力が残ります。
日銀の金融政策
次回の日銀金融政策決定会合は9月17日、18日に予定されています。追加利上げの有無だけでなく、植田総裁の発言や、今後の利上げペースに関する示唆が重要になります。
日米当局の追加発言
片山財務相、三村財務官、ベッセント米財務長官らが、為替水準ではなく、「過度な変動」や「無秩序な動き」をどのように評価するかが注目されます。
投機筋の円売りポジション
介入後に円売りポジションがどの程度解消されたかによって、相場の戻りの強さは変わります。円売りポジションが再び積み上がれば、円安圧力が強まる一方、円売りが解消された状態であれば、追加の円安加速にはより大きな材料が必要になります。
介入効果を持続させる金融政策
介入は時間を買えますが、ファンダメンタルズは変えられないことも押さえておきましょう。為替介入には、投機筋の円売りポジションを巻き戻させ、市場参加者に「これ以上の円売りは危険」と意識させる効果があります。一方で、介入だけで中長期的な為替トレンドを転換するのは難しいと考えられます。
過去最大規模となった2026年4月から5月の円買い介入後も、ドル円相場は約1カ月で介入前の水準に戻りました。
日銀は6月に政策金利を1.0%程度へ引き上げました。7月の展望レポートでも、経済・物価が見通しに沿って推移すれば金融緩和の度合いを調整していく姿勢を維持しています。
私が特に注視したいのは、日銀が市場の想定通りに利上げを行えるかです。介入によって155円台まで円高になっても、日銀が利上げを先送りすれば、円売りが再び積み上がる可能性があります。反対に、追加利上げが現実味を帯びれば、介入効果が金融政策によって補強され、円高が長引く可能性が出てきます。