はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

早期リタイアに向けた資産運用についてご相談します。


<現在の状況>
48歳男性・会社員(独身・結婚予定なし)
年収:50歳まで手取り900万円(賞与含む)
資産:円預金(普通・定期・現金合計)5,685万円
ペイオフ対策で分散、なるべく金利の高い円定期預金を利用
投資信託:バランスファンド15万円(月額5万の積立で3ヶ月目)
資産合計:5,700万円
負債:なし
住居:月額9万円(賃貸・購入予定なし)
退職金:4,200万円(50歳退職時・早期退職金など含む)
確定拠出年金:150万円(60歳)
個人年金:60歳から年72万円×10年
公的年金:65歳から月額17万円(ねんきんネットで試算)


<今後の支出想定>
50歳の退職まで住居費含めた生活費総額:月額45万円
50歳~59歳同上:月額35万円
60歳以降同上:月額31.5万円


以上の条件で試算すると、50歳で早期リタイアしても92歳まで資産を切り崩すかたちで生活できそうです。もう少し積極的な運用が必要かとも思いますが、リスクをどこまで取れるかも含めて方針を決めきれないでいます。


50歳以降はやりたいことがあるので、早期リタイアを延期または中止することは考えていません。現在の資産運用を見直すべきか、見直すとしたらどういった運用が妥当か、アドバイスをいただけないでしょうか?
(40代後半 独身 男性)


野瀬: ご質問ありがとうございます。質問者の方はかなり具体的に数字に落とし込んでいらっしゃいますね。これはすばらしいことです。

「将来設計が不安だ」「老後が心配だ」と言う方は多いのですが、実際に数字に落とし込んでシミュレーションしている人はなかなかいません。

老後にはいくら必要?

従来、FPの方が異口同音に言っていたのが「老後資金は3,000万円必要」というラインです。

質問者の方は、この3,000万円を軽く超える5,000万円以上もの預金をお持ちですね。退職金を合わせると1億円近くのお金が用意できる計算になりますので、一見かなり余裕があるように思われます。

ただ、今回想定されている生活費は世間一般より高めになっています。

国のデータでは高齢者の生活費の平均月額はおおむね22万円~25万円程度ですが、上記予算では30万円~35万円とかなり多めです。

これは「やりたいことがある」という希望をお持ちだからでしょう。

また、国のデータはあくまで“平均”で、いわゆる「余裕ある老後」を送るためには32万円ほどが毎月必要になるというデータもあります。

そして今回の場合、通常の60~65歳での定年ではなく、50歳で早期リタイアするという点もポイントです。

通常の方より「老後」が長いのです。そう考えると3,000万円の倍、6,000万円という数字をみておいたほうがよいかもしれません。

賃貸派はより積み増しを

さらに先ほどの3,000万円という数字には前提があります。

それは「持ち家」であることです。いただいた情報から推察するに、この条件はクリアしていないと考えられます。

そのため、老後に必要な資金は家賃の分だけさらに大きくなります。持ち家でも賃貸同様に管理費はかかるのですが、やはり家賃の分だけ負担は大きくなります。

仮に管理費以外の家賃が7万円だとしても、「7×12カ月×(90歳-50歳)」であと3,200万円程度は積み増しが必要でしょう。

あと、質問者の方の見積もりに含まれていないのが“イザという時”のお金です。これは病気やケガをしたときにかかるお金と考えてください。

もちろん現在の日本には健康保険の高額医療費制度があったり、高齢者は自己負担率が低かったりするため負担は抑えられているのですが、今後どうなるかわかりません。

今の社会保険情勢を考えると間違いなく、負担が重くなる方向に進むでしょう。

1億円あってもギリギリ

現実問題として幸か不幸か、実際にイザという時はほぼ来ないのですが、今回のケースではお子さんもいらっしゃらないと思いますので、子供からの助けもないと考えると、あと1,000万円ほど積み増ししておいたほうがよいでしょう。

万が一、100歳以上まで長生きした場合もこのお金で対処できますし、可能性は低いと思いますが公的年金がなくなったり減額されたりした場合の助けにもなるでしょう。

ここまでを踏まえ、50歳で早期リタイアして90歳ぐらいまで生きることを想定すれば貯金や投資(株、投信、不動産)を含めたいわゆる資産としては、「6,000万円(余裕ある老後資金)+3,200万円(90歳ぐらいまでの家賃)+1,000万円(イザという時)=1億200万円」が必要となります。

現在の予定されている1億円の資金でちょうどカバーできることになります。資金としてはちょうどギリギリ対応できる……といった水準です。

積み増し分の捻出法は?

資金として想定されている水準でカバーできることはわかりました。

しかし、それでも不安になってしまうのが老後資金です。ここから「少しだけの積み増し」をどうするのか考えてみましょう。

例えば、持家の方の場合、広い今の家を貸し出して一人暮らしに適したコンパクトな家に引っ越すことで「家賃収入>家賃支出」の余裕を生み出すことができるのですが、今回は賃貸ですので別の方法を考える必要があります。

老後資金ですので爆発的に増やす必要はなく、できるだけ安全な資産で運用する必要があります。

しかし、だからといって預金で多くの資金を回すのも効率的ではありません。その意味では、現在投資されている投資信託(資産均等型)の選択肢は悪くはないと思われます。

この数年は非常に安定したパフォーマンスを出していますし、投資先も株・債券・REITの日本・海外が半々ずつとバランスがよいからです。

海外比率が60%あるのも今後の世界情勢を考えるとマッチしていると思いますし、信託報酬が安めな点にのも好感が持てます。

「今後は日本より成長するアジアにガンガン投資」という意見も聞きますが、私はよほど熟知した方でない限り、海外への直接的な投資はおすすめしません。リスクを避けたい老後資金であればなおさらです。

自分自身がインドでビジネスをしていると、いつも実感するのは株式投資や不動産投資の難しさです。

その土地の感覚や政治状況なども理解していないと、やはり直接的な投資は難しいと思います。

その意味で手数料の分利回りは下がりますが、投資信託は海外投資の手段としてはベターだと思われます。

現預金比率の高さもリスクに

さて、そうなるとあとはその比率です。

現状、総資産の95%程度が現金預金なので、ちょっと比率が高い気がします。これほど大きな比率の預金を持っているのも、またリスクがあると考えられます。

ただ、しつこいですがリスクは回避したい老後資金ですので、投資は総資産の3割程度にとどめ、投資先も同じようなバランス型の投資信託にするとよいでしょう。間違っても新興国投資などにガツンと投資してはいけません。

今の9割以上が預金のポートフォリオだと、インフレ時に少しリスクがあるので3割程度はバランス型の投資信託などでコツコツ投資を続けるとよいでしょう。直近の資金も十分なので、分配金などにこだわる必要もないと思われます。

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