はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
金利が低く、すまい給付金が受けられる間に住宅購入を考えていますが、物件の予算や金利の選択方法について日々頭を悩ましています。貯蓄は800万円ほどで年収は420万円。妻の収入も合わせると660万円くらいですが、引っ越すと保育園が決まりにくいこのご時世ですので私の年収だけで考えていきたいと思っています。
重視しているのは以下のポイントですが、なかなか条件に合う物件は見つからず、途方に暮れそうです。
・30年ローン(60歳までの完済目標)
・住居費に関して現状以上の負担増を避けるため返済負担率20%を目指したい
・選択肢を広げるために2,800万円で考えていたが、返済負担を上げたくないため2,500万円が限界と予想
住宅ローンをうまくやりくりすることで返済負担を下げて、予算を上げられる方法があれば教えていただきたいです。
(30代前半 既婚・子供あり 男性)
野瀬: ご質問ありがとうございます。「家を買うべきか、買わざるべきか」というのは非常によく聞かれる質問なのですが、私が現時点で行き着いた結論についてお話したいと思います。
家を買うべき人3つの条件
家を買うべき人は、以下の3つの条件の少なくとも2つに該当する場合です。
1:その場所にずっと住むことが決まっている
家を買って一番もったいないのは、転勤や転職などで引越しを余儀なくされるケースです。自分用にカスタマイズできるのが持ち家のメリットですが、せっかく手間と暇とお金をかけて手を入れたものがムダになってしまうからです。
2:将来にわたって家族構成が変わらない
家を買っても、その後に子供が生まれたり、両親と同居することになったりして家族構成が変わると、家が使いづらくなり、同じ3,000万円の家でも満足度は格段に下がります。少なくとも10年くらいは家族構成が変わらない方のほうが、持ち家購入には向いています。
3:将来売ることが可能
家を購入しても、なんらかの理由で将来売りに出す可能性があります。そういった場合、「都市部駅近」「標準的な間取り」「万人受けするデザイン」であれば基本的に売却は可能です。
この条件を満たしていれば、万が一、売却することになっても大火傷することはないでしょう。
また、“売れる物件”は基本的に“貸せる物件”なので、賃貸に回すという出口戦略を用意できるのも、この条件のよいところです。
これらのうち2つを満たしていれば、家を買っても大損することはないので判断材料としてぜひ使ってみてください。
「住宅ローンは年収の5倍」に根拠なし?
さて、ここからは相談者の方の条件を拝見しつつ、私からアドバイスさせていただきます。ただ私の意見はけっこう極端だと思いますので、そのあたりにご注意を(笑)。
よく、「年収の5倍が住宅ローンの目安」と言われますが、この数字は売り手である住宅メーカーが言い出した水準で、なんの根拠もありません。
住宅メーカーからすればより高いものを買ってもらえるほうがうれしいので、この水準は自然にどんどん高くなります。
私が計算した現実的な住宅購入ラインは「年収の2倍」です。これを守るだけで生活は格段に楽になります。
「そんなんじゃ住める家がない!」と思うかもしれませんが、探せばあります。都内でも千葉や埼玉の都心へのアクセスがよい場所でも、築15~25年だと1,000万円前後の物件がゴロゴロしています。
「築25年なんてボロボロじゃないか!」と感じるかもしれませんが、2,500万円の予算を1,000万円に縮小したのですから、浮いたお金から100万円程度を支払いリフォームすると、家は見違えるように綺麗になります。
もっと綺麗にしたかったら200万円かけてもよいでしょう。それでも当初予算の半分以下です。
また築15~25年の物件を買えば、ほとんど値下がりすることはありません。
そのため売却することになった際に損する可能性も低いですし、賃貸に出しても低めの家賃設定が可能ですから、お客さんがつきやすくなります。
すまい給付金や住宅ローン控除は使うべき?
すまい給付金は“オイシイ”制度です。
私は基本的に国や行政が推奨する制度はあまり信用しないのですが(笑)、この住まい給付金の場合は、「今」お金がもらえるので年金のように諸らいに約束が実質反故にされることもないからです。
目の前によい物件があるのであれば、こういった制度はどんどん利用するべきでしょう。
また住宅ローン減税もどんどん利用するべきです。これも今から10年使用できることが決まっていますし、なにより税額控除なので財布に与えるインパクトが大きいですね。
ただし確定申告をしないとお金は返って来ないので、毎年しっかり申告しましょう。住宅ローン控除で返ってくるお金は単純に考えて「ローン残高×1%」で計算されます。
最後に家を買う方にお伝えしたいのは「焦らないこと」です。私は不動産投資をしているので住宅価格を長年ウォッチしているのですが、価格は同じ物件でも売り手・買い手の事情により大きく変化します。
「買わなきゃ!」と焦って買うのではなく、不動産屋さんに「いい物件ですね。○○万円より安くなったら買いたいです」と伝えるぐらいのスタンスでよいと思います。
すまい給付金が支給されるうちに家を買おうと思う方は、ほかにもたくさんいます。買いたい人がたくさんいるということは、マクロで考えるとすまい給付金の金額だけ不動産の価格が上がるということです。
国全体の空き家が820万戸を超える今だからこそ、家はじっくり品質・値段・出口戦略を考えて購入したいですね。