生活

イノシシ1頭1万8千円、鳥獣駆除に奮闘する女性猟師のメッセージ

これが「狩りガール」の生きる道

いきなり「血しぶき」、試練の日々

全国的に広く普及している狩猟方法は「わな」の中でも「くくりわな」。直径12センチほどの円筒形のパイプを地中に埋め、シカやイノシシがパイプを踏むとバネの力でワイヤーを足に絡ませる道具です。市販のものもありますし、駆除のために支給されることもあります。

清水さんもまずはこれに挑戦しました。山中にくくりわなを仕掛けて、様子を見て回ります。

かかっていました。大きなイノシシが。足をわなで絡めとられて、動けなくなっています。

ただ、そのままでは捕獲できません。ヤリで「止める」、つまりとどめを刺す必要があります。

清水さんは教えられたままに、イノシシののどをヤリで突き刺しました。血しぶきが飛び、自分にもかかってきます。全身が「返り血」でべっとりの状態で、何とか獲物を引き渡して処理してもらうことはできましたが、放心状態となった清水さん。

「その日は一晩中、眠れませんでした。いきなりやめようかと思いました。でも、こんな仕事だからやれる人が少なくなっている。『お前がやってくれないと困る』という地元の人の声に押されて、続けることにしました」

当時をこう生々しく思い返す清水さんですが、「それも、慣れてくるんです」とけろり。

「今は血が飛び散らないように突けるようになりましたし、電気ヤリも使えるようになったので、すごくやりやすくなりましたよ」と平然と言える頼もしさを身に着けました。

一方、「はこわな」と呼ばれる方法は、文字通り箱状のオリに獲物を閉じ込めるわな。昔から行われている狩猟の定番ですが、オリが古いとイノシシが壊して外に出てきてしまうこともあります。清水さんもそうした場面に出くわすことになり、わなを扱えるだけでは「危ない」と思うようになりました。そこで射撃場にも通うようになり、1年半後に「銃」の免許も取得したのです。

銃は狩猟免許を持ったうえで、銃刀法に基づく「所持許可」を地元の警察署を窓口に都道府県の公安委員会から認められなければなりません。この過程では本人の心身の状態はもちろん、家族を含めた周囲の身辺調査をされることもあります。

「だから、家族の理解や同意が欠かせない。ここで猟師になるのを断念してしまう人が多いんです」と清水さんも強調します。銃は購入した後もメンテナンスや訓練に通う費用で月10万円ほどの出費がかさむそうです。時間やコスト、社会生活上の負担も考えると、やはりハードルは高いと言わざるを得ません。

地域に溶け込み、新たな挑戦

しかし、清水さんはこうした数々の試練を乗り越え、ハンターとして地元に溶け込んでいきました。

地域では「巻き狩り」と呼ばれる集団の猟が盛んに行われます。十数人がチームを組み、イヌを連れた「迫子(せこ)」と呼ばれる猟師を中心に、獲物を囲い込んでいく狩猟法です。

足助では平均60歳ぐらいの猟師たちが、今は「LINEのグループ」で情報交換しながら、巻き狩りに繰り出すそうです。

清水さんも銃の免許を取得して初めての巻き狩りに誘われ、さっそくイノシシを追い込みました。体格のよいイノシシが、自分の方に向かって突進してきます。距離はすぐ1メートルぐらいの至近に。

「撃たないと自分が死ぬ」

そう思った瞬間、とっさに1発。バーン…。

当たりはしましたが、急所は外したのかイノシシはまだ止まらず、仲間の支援もあって合計3発を撃って仕留められたそうです。誰かが外したら、近くの誰かがフォローする。まさにチームワークのたまものです。

こうして年60回ほどの巻き狩りにも参加しながら、ハンターとして自立していく清水さん。これまでは夫婦で暮らす刈谷市から足助や隣町の設楽(したら)町に通ってきましたが、この春には足助の古民家へ職住の足場を完全に移すと決めています。

主にわな猟をするため登録している設楽町からは、イノシシ1頭当たり1万円、ニホンジカ1頭で2万円が「有害鳥獣捕獲奨励金」として支給され、そこに国の「鳥獣被害防止緊急捕獲等対策事業報奨金」も1頭当たり8,000円が加算されます。清水さんは現在、月に平均15頭ほど捕獲しており、前述の経費などを差し引いても、サラリーマンの夫との共働きとして「収入はそれなり」だと言います。

さらに今季は「カフェ」の収入も加わりました。3週間で来店してもらったのは延べ117人。環境や地域貢献に関心のある人のほか、アスリートが何人も訪れてきたそうです。「高タンパク・低脂肪」のジビエはアスリート向きの食事で、「街中より安くジビエを食べられる」との評判を聞きつけて、わざわざ足を運んできたとか。そんな意外な現実にも可能性を感じながら、清水さんは「収入や経済力以上に得るものが大きい」と話します。

愛知県豊田市のジビエ肉の加工施設兼直売所「山恵」で販売されているジビエ肉

「駆除以外の狩猟で獲ったものは、いわゆる『自家消費』。みんなで分け合って食べます。それ以外にも地元のおばあちゃんが『いつもありがとう』と言って畑の野菜などをどーんとくれますから、食べるものには困りません。とにかく地元の人が喜んでくれるのがやりがいです」

鳥獣被害は愛知県でも深刻化してきており、カラスやサルを含めて最近の農作物被害額は約5億円(2016年度、愛知県農業振興課)。イノシシだけでも毎年1億円前後の被害が出ています。

「1億円があれば、福祉や子育てなど違うところに使われてほしい」

県も民間と組んで処理施設を整備したり、ジビエ普及のネットワークづくりを支援したりと対策に乗り出していますが、こうして「女子目線」で訴え、活動できる清水さんの存在は貴重です。

「山恵」の前で

イベントや学校の授業などにも積極的に顔を出し、「ハンターになりたい」「ジビエのカフェを開きたい」という相談も歓迎しています。

女性猟師として好奇の目で見られたり、動物愛護団体から抗議を受けたりするのはリスクでもあるはずです。しかし、それを承知で踏み込んだ“けもの道”を、清水さんは突き進む覚悟ができているようです。

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