はじめに
あのiPhoneXを超える高価格スマホも
性別、年齢の次によく行われるのは、収入を基準にしたターゲットの絞り込みです。中でも最もよく使われるのが「プレミアム戦略」と呼ばれる、何か付加価値をつけて平均より高い価格で商品を売るという方法です。
中国でのiPhoneXの販売価格は安くても8,388元(約14万円)程度と通常のスマホとしてはありえない価格帯になっています。そんな中、価格帯でiPhoneXの上を行き、比較的勢いがあるのが「8848」というブランドです。
この8848は、大手不動産会社の社長である王石氏を全面に起用して広告展開を図っています。最新モデルは1万3,000元と1万6,000元で、百貨店や高級ホテル、また一部のショッピングモールや量販店で販売しています。私も実物を見たことがありますが、価格は高いものの、そこまで畏れ多い感じではありませんでした。
深圳の家電量販店で販売されている「8848」のスマホ
中国発の高級ブランドがほとんど成功しない一因は、何事にも蓄積をあまり重視せず、とかく移り気な中国人の性格にあると考えられます。ところがこの8848は、珍しく比較的長期にわたって同じ人物、同じトーンとマナーで広告を続けています。それが結果としてブランドの成功に良い影響を与えているのではないかと考えられます。
昨年12月27日には、「KRETA」という英国から来たと自称する高級ブランドが、4万元弱という強気の価格設定で中国市場参入を発表しました。航空機に使われる各種の高度な技術を使うとの触れ込みですが、私が英語で検索した限りでは中国以外でまったく情報が見当たりません。
クレタという名前を聞くと、「クレタ人はみな嘘つきだ」というエピメニデスのパラドックスを思い出してしまいます。名前の通り嘘つきだった、などというオチでないといいなと思います。
家電メーカーのスマホは迷走ぎみ
ソニーやパナソニック、韓国のLGエレクトロニクスなど、総合家電メーカーがケータイを作った例はいくつもあります。すべての家電がインターネットにつながりつつある今、現代人の行動の起点であるスマホを自社ブランドで押さえ、そこからすべての家電を便利に使えるようにすることで自社製品でそろえてもらおう、と考えるのは自然な流れです。
そうした先を見越した戦略に基づいたものであればよいのですが、中国スマホにおける他業界参入は必ずしもそうでないと思われるものも多く見られます。たとえば、Netflixに似た動画サイト「楽視(ルーシー)」は、動画を見るのに最適との売り込みで、独自ブランドのスマホを販売しています。
同社はほかにも、スマートテレビやイヤホン、多機能リモコンとどんどん商品ラインナップを拡大。最終的にはフェラーリ、ランボルギーニ、テスラの上層部から人材を引き抜いて「Faraday Future」という高級自動車ブランドを作ろうというところまで行きました。
ただ、会社の資金繰りが悪化し、創業社長が失脚したことなどで、こうした本業以外のビジネスはほぼ停止状態に陥ったようです。その転落の引き金はスマホ事業であったともいわれています。
ですが最近、ルーシー復活のニュースが流れ、スマホ事業も息を吹き返したようです。現在、公式サイトでは、有名映画監督である張芸謀(チャン・イーモウ)氏とのコラボモデルなども紹介されています。
カリスマ社長にKFC、少し“痛め”のスマホたち
面白い例としてよく話題になるのが、エアコン製造大手「格力(グリー)」によるスマホでしょう。創業者である女性、董明珠(ドン・ミンジュ)氏はカリスマ経営者としても有名です。
上述したように、家電メーカーがスマホを作ること自体は珍しいものではなく、この商品も「エアコンを操作できるスマホ」として宣伝されています。しかし実は、その裏の本当の動機は社長の趣味なのではないか、といわれています。
というのも、このスマホは起動画面に社長である董氏の顔とメッセージが表示されるのです。もともと彼女はメディアに出ることが好きで、自社製品の広告にも出演していたため、そのような疑いを持たれたようです。
ちなみに、この機種は主に従業員向けとのことで、現在購入することはできません。ただ、グリーは今でも一般向けにも何種類かスマホを販売しています。
ネット上に流れている「董氏携帯起動画面」の写真
また、2017年にはケンタッキーフライドチキン(KFC)の中国進出30周年記念コラボモデルがファーウェイから発売されました。背面にカーネルおじさんロゴが微笑み、起動すると中国進出当初のケンタッキーに触れる子供たちの壁紙が表示される仕掛けです。
この特製モデルは、中身が2世代くらい前の低性能であったこと、ロゴと壁紙、それに最初からKFCアプリが入っている以外に何も特別でないことなども相まって、数量限定でありながら、簡単に入手することができました。