はじめに

理由その3:貧困の解消になるから

このように一部フィンテック系のサービスには「取り組みが中途半端である」「貧者を食い物にしている」といったネガティブな印象が伴っているようです。

しかし貧テックという言葉が誕生した当時、貧テックはむしろポジティブな方向性を伴う概念でした。フィンテックは「貧困解消に役立つ」可能性もあるからです。これこそフィンテックが貧テックと呼ばれる第3の理由です。

貧テックという言葉が公の場で初めて登場したのは、2016年2月に開催されたあるトークセッションでのことでした。このセッションに登壇したフィンテック関係者の一人が「米国では、フィンテックとミレニアル世代(2000年代に成人・社会人になった世代)との相性が良い」と発言。その発言で、貧テックという言葉を登場させたのです。

ミレニアル世代は社会人になって以降、金融危機(注)を2回経験した世代でもあります(注:ITバブルの崩壊とリーマンショック)。そのためこの世代のなかには、資産形成よりも借金返済を優先する人や、そもそも支出を切り詰める人も少なくなりません。そんな家計を支えるための方策として、フィンテックが役立っている――というのが、登壇者による見立てでした。

つまりここでの貧テックは、取り組みが中途半端だと言っているのではなく、ましてや貧者を食い物にしていると言っているのでもなく、むしろ貧者の救いになっていると指摘しているわけです。

食い物にするのか?救うのか?

実際、国際的視点で見ると、フィンテックとして紹介されている技術やサービスの中には、貧困解消を指向するものも少なくありません。

例えば「ブロックチェーン(改ざん困難な公開台帳)を利用して農作物の流通記録を透明化し、不正取引による農家の不利益を解消しようとするサービス」(タイ/アグリレッジャー)もありますし、「住所がないため口座を持てない難民のために口座を提供するサービス」(ノルウェー/タカヌバンク)もあります(参考:日本経済新聞2016年9月22日「『難民や貧困』フィンテックVB、解決策競う」)。

またマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が運営するゲイツ財団のように、貧困解消を目的とするフィンテックの推進を掲げる団体もあるほどです。そして頼もしいことに、この種の取り組みを行う日本発信のサービスもあります。

もっとも貧テックという言葉からもたらされる第一印象から、以上のような社会貢献的なイメージを連想するのは(前述の登壇者さんには申し訳ないのですが)なかなか難しいかもしれません。

筆者個人としては、貧テックからもたらされる「中途半端だ」とか「貧者を食い物にする」とかのイメージを払拭できるよう、フィンテック関連企業からより良い技術やサービスが誕生することを願うばかりです。

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