下請けからの脱却、日本酒の「進化」への挑戦

ここで、お待ちかねのテイスティングの時間がやってきました。ワイングラスに入れた3種類の日本酒の飲み比べです。

試飲は香りを楽しめるようにワイングラスで

銘柄を伏せて「A、B、C」のお酒として試飲。どれも私が普段飲む日本酒よりはよほどおいしいのですが、Aはいかにもフルーティーな味わいが、Bはかなりキリッと、Cは比較的まろやかな口当たりを感じました。

約30人の参加者にどれが好みか手を挙げてもらうと、A:B:Cが6:3:1ぐらいの割合になりました。正解は…。

Aが「醸し人九平次」、Bが「富久長(ふくちょう)」、Cが「洌(れつ)」でした。

いずれも原料は山田錦で、精米歩合が50%のものを得意先の酒店に選んでもらったそうです。もちろんヤラセ、仕込みは一切なし。それでも九平次が「一番」に。「セミナーでは毎回これをやるんですけど、ドキドキしちゃいます」とホッとした様子の白井さん。「どれがいいか悪いかではなく、好みはそれぞれありますから」とフォローも忘れませんでした。

テイスティングで飲み比べたいずれも山田錦からつくった日本酒

富久長に関しては、平成27年度に醸造されたことを示す「27BY」の文字がラベルにありました。山田錦は熟成のきく米でもあって、2年前の酒でも十分すすめられるそうです。「日本酒も数年寝かせて、その年の出来の違いを楽しむ『ビンテージ』があっていい」のも、九平次の提案。こうして、同じ山田錦でも蔵元や年代、あるいは産地による違いを知り、料理に合わせて楽しんでほしいと2人は強調しました。

こんなぜいたくな時間を味わいながら、酒蔵の歩んだ紆余曲折の道のりにも思いを馳せました。

テイスティング後は活発に意見交換。左は蔵人の白井一徳さん、右は「醸し人主任」の中川宣晴さん

萬乗醸造は1647年創業という老舗ですが、戦後は大手メーカーの下請けで安価な酒を機械的に大量生産していました。

しかし、1980年代をピークに日本酒の消費量は下がり始め、代わりにウイスキーやワインなどの洋酒が台頭します。90年代に入ってバブルも崩壊し、「このままではいけない」と危機感を抱いた15代目当主、久野九平次(現社長)は1997年、それまでの製造ラインをすべて止め、純米吟醸酒の製造だけに切り替える大勝負に出ました。

酒づくりのあり方を一から見直し、手間はかかっても米をしっかり手で洗い、酵母を丹念に仕込んで一本一本をびんに貯蔵するやり方へ。

いい酒の味とは、香りとは…と試行錯誤を重ねて、米の品種や苦味、酸味も生かす「五味」といった独特のコンセプトに行き着きます。こうして出来た「九平次」ブランドを、あえて日本を離れてフランス・パリのホテルやレストランに売り込み、数年がかりで有名シェフにも認められるようになります。その評判が日本に「逆輸入」され、国内でもその評価を高めることになったのです。

実は私も名古屋で暮らしながら、東京経由の情報で九平次の存在を知った一人です。4年前の取材時、久野社長は「海外に出たことで、同時に日本酒の至らないところ、欠けているところが見えてきた」と言っていました。それが自社田の所有など日本酒づくりの根本的な見直しと「進化」への挑戦につながっています。

2015年にはフランス・ブルゴーニュ地方の醸造所を取得、17年には畑を所有し、収穫したブドウでワインを醸造し始めました。

「ワインづくりを日本酒づくりに生かそうとしています。ブドウから学んで、日本のお米からよりいい味わいを出したいんです」と中川さんがその狙いを代弁しました。最初はややぎこちない雰囲気でしたが、テイスティングで一気に打ち解け合った参加者からは日本酒に関する質問や意見がなかなか収まらないほどに飛び交い、充実した2時間が過ぎました。

※お酒はもちろん未成年の飲酒厳禁。大人も飲み過ぎに注意することをお忘れなく。