はじめに
この連載コラムのテーマはお金の「言葉」ですが、今回はお金の「文字」について取り上げてみましょう。それも?のような「絵文字」のお話です。
日本ではガラケーの時代に大きく普及した絵文字ですが、海外では2010年の国際規格化(Unicode 6.0でのサポート)を契機に、絵文字の利用が一気に広まりました。
いまやemoji(エモジ)は国際的に通用する言葉です。顔文字を意味するemoticon(エモーティコン)や、その語源でもあるemotion(エモーション)とたまたまよく似た語形だったことも、認知度向上の役に立ったのかもしれません。
そしてUnicodeに登録されている絵文字の中には「お金」に関連する絵文字も存在します。そこで今回は「お金に関連する絵文字にはどんなものがあるのか?」「そんな絵文字にはどんなトリビアが隠されているのか?」について、前編・後編の2回に分けて探ってみます。今回はその前編です。
なお今回紹介する絵文字とは、特に注釈がない場合「Unicodeに登録されている絵文字」を指すものとします。
紙幣の絵文字は「色合い」に注目
まず紹介したいのが紙幣(お札・銀行券)を表す絵文字です。
紙幣を表す絵文字は4種類。円紙幣(?)、ドル紙幣(?)、ユーロ紙幣(?)、ポンド紙幣(?)があります。SNSなどの書き込みでは、収入や買い物に関連する話題でよく登場します。
ちなみにこれら4つの通貨は、世界の為替市場における通貨別取引高シェアのトップ4(全取引高の約4分の3)にあたります。もっとも規格の策定時に、このシェアが意識されたかどうかは分かりません。
絵文字のデザインに見られる色合いが、実際の紙幣の特徴をうまく捉えている点も注目したいところです。もちろん具体的な絵文字のデザインは、皆さんが使っている情報端末やアプリケーションによって異なります。しかし多くの実装でドル札の絵文字は「くすんだ緑色」なのです。そういえばドル紙幣のことを英語ではgreenback(グリーンバック)とも言いますね。かつてドル札の裏面(バック)が緑(グリーン)のデザインだったことが由来です。
またユーロ紙幣の絵文字は、多くの実装で「鮮やかな緑色」をしています。これはおそらく100ユーロ紙幣の色合いをイメージしているのでしょう。そしてポンド紙幣の絵文字の場合は、多くの実装で「紫色」を採用しています。おそらくこれは20ポンド紙幣をイメージしているものと思われます。
このように絵文字の色合いは、その通貨における代表的な紙幣のイメージを反映しているわけです。
ガラケーには「ドル札」しかなかった
ところでこれら「紙幣の絵文字」は、Unicodeで絵文字が採用された際に大幅に拡充された経緯があります。逆に言えば、Unicodeの絵文字のモデルとなった日本の絵文字(すなわち国内の携帯電話事業者が独自実装したガラケー用絵文字)では、紙幣の絵文字に存在感がなかったのです。
似た絵文字がなかったわけではありません。例えばNTTドコモ(以下ドコモ)とKDDI(au)の絵文字のなかには、四角(□)の中に¥マークが入った絵文字がありました。しかしドコモはこれを「有料」のマークとして、KDDIは「小切手」のマークとしていたのです。
しかしながらKDDIはこの「小切手」絵文字とは別に、長方形に$マークが入った絵文字も用意していました。そしてこれを「ドル札」と呼んでいたのです。おそらくこのドル札が、ガラケー時代に唯一存在していた紙幣の絵文字でした。Unicodeはこのドル札をベースとして、ドル以外の紙幣も追加していったのでしょう。