はじめに
世界中の人が固唾をのんで勝負の行方を見守った平昌オリンピック。カーリング女子の日本代表チームが歴史的な銅メダルを獲得したことも大いに話題を呼びました。
その試合のハーフタイム中に見られたのが、通称「もぐもぐタイム」。かわいらしいネーミングとは裏腹に、後半戦に備える作戦会議と栄養補給を兼ねる重要な時間です。
そんなもぐもぐタイムに選手たちがよく口にしているのがフルーツ。オフィスなどで見られる間食はパンやスナック菓子といった炭水化物が中心ですが、なぜスポーツ選手ではフルーツを摂るのでしょうか。その事情に迫ります。
素早くエネルギーになるフルーツ
平昌オリンピックのカーリング女子準決勝の日韓戦では、日本人選手はイチゴを、韓国人選手はリンゴを食べながらハーフタイムの休憩を取っている姿が話題を呼び、「イチゴ vs リンゴのもぐもぐ対決」と評されました。
残念ながら日本チームは韓国に敗れてしまいましたが、国は違えどハーフタイムのおやつには積極的にフルーツが食べられている点は共通しているのです。
「スポーツでは食事で勝つことはなくても、負けることはある」という言葉がある通り、スポーツではベストコンディションで試合に臨めるかが勝敗を左右します。最大限のパフォーマンスを出し切るために、食事で足を引っ張られることはあってはいけません。
食事の難しいところは、どんなに良質な食品であっても同じ食材を毎日食べ続ければ不足する栄養が出てしまう点にあります。人の体は複雑系ですから、多様なものを食べることで健康は作られるのです。スポーツについていえば、自身の力のすべてを出し切るために「戦略的な食事」が重要になります。
それは普段の食生活はもちろん、試合前日から始まっています。前日にエネルギーを体に蓄え、質の高い睡眠を取ることが欠かせません。また、試合当日は消化にかかる時間を考慮して、早めに朝食を済ませて試合で全力を出し切れる体調を整えることが必要です。
試合前日から考える食事の取り方
スポーツをするうえで、理想的な食事とはどのようなものでしょうか。アスリートの食事指導、スポーツ栄養学のセミナーやメディアを運営しているアストリションによると、アスリートが力を出し切るための試合前日から当日の食事は次のようなものだといいます。
■ 試合前日
運動時のエネルギー源となるグリコーゲンを蓄えるために糖質(炭水化物)がオススメ。炭水化物も脂肪分を多く含まないご飯、パン、うどんなどあっさりしたものが良いそうです。
天ぷらやカツといった揚げ物を食べると、消化に時間がかかり、それだけ内蔵に負担がかかってしまいます。また、試合前日は精神的にもストレスを抱えがちで、消化機能の低下を招いてしまいます。そのため、体に負担をかけてしまう食事を避けるのは、試合当日に力を出し切るためには重要だといいます。
食事を取る時間帯にも注意が必要です。試合前日は就寝3時間前に食事を済ませるのが理想的。というのも、寝る直前に食事をすると内臓が消化作業にあたるので、睡眠の質が落ちてしまうからです。
■ 試合当日
試合の3~4時間前には食事を済ませます。消化中に全身に血液が巡るスポーツをすると、胃が消化不良になり腹痛などを引き起こしてしまいます。炭水化物でグリコーゲンを補給するためにも、朝食は前日と同じようにあっさりしたご飯やうどんなどがオススメです。
また、試合前はプレッシャーなどで前日以上にストレスを強く受けていることが多いもの。お腹いっぱい食べて消化不良にならないよう、腹八分目で抑えておくことが高いパフォーマンスを出すために必要です。
■ 試合当日の間食
午前中の数時間で試合が完了するならいざしらず、オリンピックのように午前、午後と長丁場の戦いとなる場合は「午後の試合の3時間前の食事」とはいかない場合があります。
午後の試合が13時から開始となると、その3時間前は午前10時。その時間は午前の試合中ですから、短い時間で効率良くエネルギーになり、なおかつ消化に負担をかけない食事がどうしても必要なのです。
体力の消耗を抑えるフルーツ
そんな難しい間食に登場するのがフルーツです。消化時間がかかる順番は「タンパク質>炭水化物>野菜>フルーツ」で、タンパク質の中でもお肉は12~24時間ほど消化に時間がかかる場合があります。
肉厚ステーキを食べて胃もたれを起こすのは、消化作業に長い時間を要してしまうからなのです。反面、フルーツは野菜よりも消化時間が短く、わずか30分前後で済みます。
さらに、食事をする時には「体内酵素」を消費します。食事をするのはエネルギーを使うことを意味するわけですが、果物はそれ自体に酵素が含まれているので、体内の消化酵素を使わずに食事が取れます。食事による体力の消耗を抑えて、短時間でエネルギーが補給できるフルーツには、アスリートがこぞって食べる理由があるのです。
アストリションの盛岡良行氏は、平昌オリンピックでアスリートがフルーツを食べていたことについて、こう分析します。
「果物は消化が良く、また果糖は糖質の中でも吸収が早いため、 運動前・運動中の即効性のあるエネルギー源になります。特に試合時間が長い競技や、自分の順番が回るまでに時間の空く競技では集中力を保つために果物は役立ちます。何よりあっさりしていて食べやすい点が、多くのアスリートに支持されている理由ではないでしょうか」
今回のオリンピックで、屈強なアスリートがもぐもぐとフルーツを食べる姿が注目されたことで、果物の利点が再認識されたのではないでしょうか。スポーツに限らず、忙しい現代人にこそ、果物による栄養補給が適しているのかもしれません。
(写真:ロイター/アフロ)