はじめに

東証REIT(不動産投資信託)指数は昨年1年間で6.8%のマイナス(配当込み)でした。TOPIX(東証株価指数)が22.2%のプラスであったのと比べて、大きく出遅れたといえます。一方、今年に入り、3月14日までの時点ではTOPIXが4.0%のマイナスと低迷する中で、REITは1.4%のプラスです。

割安感から底堅く推移していますが、はたしてREITは今、買い時といえるのでしょうか。REITが保有する資産価値をベースに、今の投資価値を考えたいと思います。


保有資産価値は客観性が高い

REITの大きな特徴として、資産価値の客観性が極めて高い点が挙げられます。通常の企業の価値はバランスシート(貸借対照表)に載っている資産から正確に試算することは非常に困難です。一方、REITの場合は、保有不動産はすべてテナントに賃貸されて賃料を生み出している不動産です。

また、それらの不動産は鑑定評価という形で、直近の時価が開示されています。不動産には巨大な取引市場があり、その市場の中での取引事例を参考に、REITの保有不動産の時価は客観的に試算することが可能です。

株価純資産倍率は過去平均以下

REITに長期的な視点で投資をする際の尺度として、株価純資産倍率に着目することが最も重要だと私は考えています。株価純資産倍率は、REITが保有する全資産の時価(総資産価値)から負債を引いたもの(純資産価値)に対して、現在の株価はどの程度の評価を与えているかを表します。

3月14日時点のREITの株価純資産倍率は1.07で、1をやや上回っている水準です。1の価値があるものに対して1以上の株価がついているため割高と思われる方もいるかもしれませんが、下図の通り、2001年にREIT市場が始まって以来の株価純資産倍率の平均は1.17と、1を大幅に上回っています。

非常に効率的な投資形態

なぜREITの株価純資産倍率が過去平均で1を上回っているかという点については、大きく3つの背景があるといえます。

1点目は、REITには法人税が課されていません。一般企業が負担する法人税分も含めて配当として分配されますので、REITは現在約4%という高水準の配当利回りを実現できています。

2点目は、REITは信用力が高いため借入コストが他の不動産投資家と比べて有利である点です。直近の主要なREITの借り入れを例にとると、10年程度の無担保固定金利の借り入れで利率は約0.5%。これは他の不動産に投資する主体と比べてかなり有利な条件です。金利負担が少ないことは、分配金がその分たくさん出せることを意味します。

3点目は、実物不動産投資に欠ける流動性がREITにはある点です。実物不動産投資の場合は流動性が十分ではないため売買したくてもできない局面もありますが、REITの場合は特に大規模な投資でなければ、市場でタイムリーに売買できます。

リスクを押さえつつ高利回りを享受

投資家はREITのこれらの優位性を評価したため、保有不動産の価値に比べて高めの株価純資産倍率がついていたといえます。

過去のREITの株価純資産倍率をみると、金融危機前の2008年前半から2012年後半にかけては、一時期を除き、1を下回った時期が長く続きました。この期間は不動産市場あるいは金融環境に大きな問題があった期間でした。

現在の不動産市況をみると、アベノミクスが始まった2012年以来、価格の上昇基調が続いており、天井感が出つつも、まだ調整を迎えるサインは出ているとはいえません。また、金融環境についても、世界的には金利は上昇傾向に転じましたが、不動産価格の急落につながるようなクレジットクランチ(信用収縮)のサインは出ておらず、今後の金利上昇がREITの業績にそれほど悪影響のないペースにとどまる可能性もあります。

これらの状況を考えると、株価純資産倍率で1倍をやや上回る程度で、過去平均を下回る現在のREITのバリュエーションは、ダウンサイドリスクが低いといえます。リスクを抑えつつ、高い利回りを獲得できる投資対象として、REITは分散投資の一環として組み入れておきたい資産と考えられます。

みずほ証券では、今年末の東証REIT指数を、株価純資産倍率1.1倍に相当する1,700ポイントと予想しています。

(文:みずほ証券 エクイティ調査部 シニアアナリスト 大畠陽介)

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