はじめに

東京・お台場を代表する商業施設の1つ、「ヴィーナスフォート」が3月17日、大規模改装を終え、リニューアルオープンしました。

店舗数は約60店と、全体の約3割が新しくなり、面積としては約4割という大々的なリニューアルです。主なターゲットとしたのは、都市に住むファミリー客だといいます。

ヴィーナスフォートの何がどう変わったのか。そして、なぜ今のタイミングで大規模リニューアルを実施したのか。その舞台裏を調べてみました。


家族で食べやすい飲食が充実

今回の大規模リニューアルの目玉の1つが、レストランとカフェの充実です。3階のフードコートを全面的に刷新。「FOOD COURT VENUSFORT KITCHEN」へと生まれ変わりました。

店舗としては、門崎熟成肉をメインで取り扱う「格之進」のカジュアル業態である「格之進ハンバーグ」や、築地の仲卸「鈴富」が直営する海鮮丼ぶりの専門店「築地魚河岸 鮪どんや」などが新たにオープン。


熟成肉を手軽に味わえる「格之進ハンバーグ」のメニュー

格之進ハンバーグでは4月27日まで、3種類のハンバーグを食べ比べできる定食(2,929円)を1日29食限定で提供。鮪どんやでは、3月23日までの期間限定で、銀座の店舗では1万0,800円で提供しているトロづくし丼を2,592円(いずれも税込み)で販売しています。

フードコート全体では、ボックスシートを多めに配置。ファミリー客が利用しやすいよう、配慮したといいます。

ファミリー客向け施設が拡充

リニューアルのもう1つの目玉は、子供を中心としたファミリー向けの施設を拡充した点です。

1階の体験型屋内パーク「アネビー トリムパーク」では、独HABA社の大型遊具を導入したほか、段ボールやクレヨンが置かれて自由にものづくりができる「ドリームラボ」を開設しました。


セレクトショップでは実際に試してからの購入が可能

また、併設店舗として「ATPセレクトトライミングショップ」を設置。気になった商品を自由に試して、遊んでから、購入できるのが特徴です。

3階には、1階のファミリー向けゾーンの別館という位置づけで、「Venus FAMILY ANNEX」を新設。子供用フォトスタジオの「LOVST PHOTO STUDIO」や、学童保育型の英会話スクールである「KidsUPお台場」などが開業しました。

リニューアルに4つの事情

今回の大規模リニューアルの背景には、どんな事情があるのでしょうか。森ビルが運営するヴィーナスフォートの横井明生リーシングオペレーションチームリーダーは、4つの理由を明かします。

1つ目の理由が、周辺エリアにおけるマンションの増加です。ヴィーナスフォート周辺では、今も大規模マンションの建設が進行中。横井チームリーダーによれば、2020年頃には周辺住民がさらに10万人増加するといいます。こうしたニューファミリー層を取り込むために、ファミリー客を意識した施設へとリニューアルしたわけです。

2つ目の理由が、外国人観光客の増加です。お台場は羽田空港に近いこともあり、今後も東京オリンピックに向けて外国人客の増加が見込めます。こうした外国人も、大人数のファミリー客が中心。ファミリー客向けの店舗拡充は、インバウンドの需要取り込みにもプラスに働くと考えられます。

3つ目の理由が、コト消費へのシフトです。アマゾンをはじめとしたインターネット通販が台頭する中、リアル店舗は単なる物販ではなく、顧客に体験を提供する方向に軸足を移しています。今回のリニューアルでも、写真館や英会話、体験型屋内パークを充実させることで、消費トレンドの変化をとらえる考えです。

4つ目の理由は、今年夏に隣接エリアにデジタルアートミュージアムが開業するのを控え、新たな客層を開拓する狙いです。このミュージアムは森ビルとデジタルコンテンツ制作会社「チームラボ」が共同で開業するもので、これまでお台場を頻繁に訪れていなかったファミリー層の来場も見込まれます。

歴史的な事情も潜む?

こうした4つの環境変化以外にも、歴史的な事情があるようです。

1999年に開業したヴィーナスフォートも、まもなく開業から20年を迎えます。当初は10年間の期間限定の施設で、2010年までに撤去され、用地を東京都に返還する予定でした。しかし、2008年に起きたリーマンショックによって、当初の事業計画が頓挫。既存施設の営業が延長されることになりました。

「継続的に事業を行える環境が整ったこともあり、大規模リニューアルに踏み切りました。将来の臨海副都心の発展に投資しよう、新しい街づくりに参加したい、という思いが森ビルを動かしたのです」(森ビルの松永淳ヴィーナスフォート館長)

今回のリニューアルによって、売り上げを少なくとも前年比で2ケタ増には持っていきたいと、松永館長は匂わせます。しかし、森ビルは商業施設の運営にあたって、収益が上がることはもちろんですが、それ以上に賑わいや集客に重きを置いているといいます。

最近は日本人客よりも外国人観光客の姿が目立つようになった、お台場。今回のヴィーナスフォートの大規模リニューアルがファミリー客の心に火をつけ、再びお台場が広域から日本人客を引き寄せる起爆剤となるでしょうか。

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