事業性と社会性を「車の両輪」に

そのころ、同じいわきで自然エネルギーによる「コミュニティー発電所」の建設に取り組もうとしていたNPO法人「インディアン・ヴィレッジ・キャンプ」副理事長の島村守彦さん、被災地でのスタディーツアーの必要性を説いていたNPO法人「ふよう土2100」理事長の里見喜生さんらと復興にかける思いを共有するようになりました。

コットン畑とソーラーパネルが共存する地域づくりができるのではないか、コットン畑に農業再生を学び、再生可能エネルギーにエネルギー転換を学ぶツアーが企画できるのではないか……。3団体が強みを生かす可能性が「いわきおてんとSUNプロジェクト」として国の復興モデル事業にも認められ、13年2月には企業組合という形に発展していきました。

逆に「ザ・ピープル」だけでのコットン事業は、収益化が難しい状況でした。当初、「アバンティ」からコットンとしては破格の1kg当たり1,000円での買い取りを約束されていましたが、初年度に導入した綿繰り機をスタッフ総動員で繊維にしても、総重量は60kg。高値で買い取ってもらっても6万円にしかなりませんでした。

残りの綿は、ふわふわの「コットンボール」のままの形を生かして赤ちゃんに見立てた「コットンベイブ」という商品にしました。これは全国の支援者から好評でしたが、製作は仮設住宅の女性グループや地域の障害者施設などに委託する手づくりの活動で、初年度の事業収支は大幅な赤字に終わっていました。

これでは収益性、事業性が見込めないとして、繊維からTシャツなどの商品をつくり、地域ブランド化していく事業は企業組合として、手づくりのコットンベイブは「ザ・ピープル」の事業として切り分けることに。苦渋の選択だったそうですが、結果的にこれが事業性と社会性を車の両輪のように回していく好循環につながっていきます。

栽培も2年目以降は課題を整理してマニュアルができ、畑もいわき市内23カ所に加えて広野町、南相馬市などの計2.5ヘクタールにまで拡大。ワタの収量は1トン弱に、商品はTシャツ、手ぬぐい、タオルとラインナップを増やして「ふくしま潮目−SIOME」というブランドで統一、企業からの委託生産(OEM)も引き受け始めます。そこに合流したのが「ラッシュ」でした。

「おてんとSUN」オーガニックコットン事業部の酒井悠太さん(左)とラッシュジャパンバイヤーの細野隆さん

「お情け」ではないビジネスモデルに

ラッシュは元々、石けんなどの商品を店頭で包むためにラッピング材を開発していました。そのデザイン性や機能性が評判となり、「ノットラップ」を独立した商品として販売するように。世界中から素材を探すバイヤーである細野隆さんは「原材料の購入と同時に、社会環境や自然環境にポジティブな影響を与えるのがわれわれの理念。いわきのコットンはオーガニックであることはもちろん、福島の地域再生にポジティブなものであるという意味でベストマッチ。われわれがやらない理由がありませんでした」と振り返ります。

いわきのオーガニックコットンから商品化されたノットラップ

2016年3月、共同開発の第一弾ノットラップ約2,000枚を国内で限定販売。その1年後には第二弾を商品化、一気に世界49カ国のラッシュで売り出しました。生産量は10倍にふくれ上がり、栽培現場も試行錯誤しながら収量を増やしていきました。

そして3年目の今年、イギリスのデザイナーが日本の伝統を意識して手ぬぐいタイプのノットラップを実現。発売を記念した今回のワークショップは、その新商品を「ヘアターバン」や「祝儀袋」などに活用してもらう試み。参加者は和気あいあいと作業に取り組みながら、そのやさしい肌触りや、形と模様の織りなす無限の可能性を感じていました。

ノットラップを折りたたんで「祝儀袋」にも

放射能については、原料の段階で放射性物質を厳密に測定して「不検出」を確認しています。

「海外でも放射能について心配されることはあります。でも、その説明をきっかけに福島の現状を知ってもらえる。普通のコットン製品なら、誰がどんな思いでつくっているかなんて気にすることはないでしょう。それを知ってもらえるというのは、商品としてとても面白い」と細野さん。

こうして、いわきのオーガニックコットンはラッシュだけでなく、ブリジストンやパタゴニアなどの企業にも認められ、コラボレーションが進んでいます。これまで捨てていた茎の部分を「コットンペーパー」に加工することで、さらに収益性を高める目処もついています。

「かわいそうな被災地の人たちが始めたから、お情けで買ってくれるという関係ではありません。震災を通して気づいた課題の解決に地域が取り組み、それがビジネスとして認めてもらえている。まだ課題は多いけれど、それを乗り越えて、原発の電気や農薬を当たり前のように使ってきた時代とは違う、新しい社会のあり方を示したい」と吉田さんは決意を新たにしています。

いわき市を北上すれば、双葉町、大熊町という原発立地地域を中心に帰宅困難区域が広がります。そうした地域にとっても、「おてんとSUN」のビジネスモデルが少しでも先を見通す光となることを願ってやみません。