はじめに

ひつまぶしや味噌カツ、あんかけスパなど、名古屋地域で親しまれる独特の食文化「なごやめし」。ひと昔前は「濃い」「くどい」と否定的に見られていたものが、今や逆に庶民的なご当地グルメの代表としてもてはやされています。

3月29日には名古屋城内に食をテーマにした「金シャチ横丁」がオープン。観光資源に乏しいという名古屋の汚名を返上しようと、官民入り乱れて貪欲にビジネスチャンスを広げています。


名古屋城で食の「新旧対決」

名古屋城の正門脇。これまで天守閣を目指す人波とは少し外れて、ひっそりとしていた国有地に、時代劇のセットのような建物群が現れました。

瓦屋根の下には「矢場とん」「山本屋総本家」「びんちょうひつまぶし」などの看板。地元では見慣れた老舗の名ばかりですが、メニューには金粉をまぶした「金シャチひつまぶし」や「金シャチ煮込みうどん」、金の皿に載せたわらび餅などの限定ものも。金シャチひつまぶしは税別6,600円、通常のひつまぶしも3,000円代という値段ですが、26日の内覧会から店内には行列ができていました。

限定メニュー「金シャチひつまぶし」の看板

そこから東へ向かって歩き、大相撲名古屋場所も開かれる愛知県体育館の前を通り過ぎて500メートルほど。大通り沿いの駐車場があった場所には、趣きの違った新しい建物が。黒壁にガラス張りの店舗には「POP★OVER」「SHIROMACHI GRILL」などの横文字も並びます。

メニューはイタリアンやシーフード、ラーメンに串揚げと多彩。「あんかけ太郎」は、どろりとしたスパイシーなソースに極太のパスタをからめて食すあんかけスパの新鋭店。名古屋・大須発で国内外約50店舗を出店する「フジヤマ55」は、看板メニューの「つけ麺」のほか、今や新なごやめしとして知られるようになった「台湾まぜそば」もラインナップ。ベジタブル・カフェを標榜する「saien」は、金箔を張ったソフトクリーム「金シャチソフト」も販売するなど、どれもインパクト十分です。

宗春ゾーンの店舗で出される「金シャチソフト」

金シャチ横丁はこうした新進気鋭の7店が並ぶ「宗春ゾーン」と、老舗の12店が正門前に集う「義直ゾーン」で構成されます。なごやめしの「新旧対決」を演出して、エリア全体を盛り上げようという狙いなのです。

モダンな建築に新興の7店舗が入る「宗春ゾーン」

新旧かけ合わせた「第3世代」台頭

名古屋城は言わずと知れた名古屋最大の観光資源ですが、周辺は官庁街やオフィスばかりで、観光客向けの飲食施設は非常に限られていました。河村たかし市長は2期目の市長選で「世界の金シャチ横丁」構想として、名古屋城の新施設整備を天守閣の木造復元と共に公約に掲げて当選。天守閣の木造化はいまだに賛否両論があってスムーズに進んでいるとは言えませんが、「横丁」構想は一足先に実現しました。その背景に「なごやめし」が全国的な知名度や市民権を得たこともあると言えるでしょう。

そもそも「なごやめし」と呼び始めたのは名古屋でレストランバー「ZETTON」を展開、2000年代に東京進出も果たした稲本健一氏(現ZETTON,INC.代表)だというのが定説です。そのころ相対的に「元気」だった名古屋経済の発展、2005年の愛知万博開催などの追い風もあり、名古屋の食が再発見され始めました。

豆味噌(赤味噌)をベースとした濃い味と深いコク。辛いものは辛く、甘いものは徹底して甘くするメリハリ。薬味を使い分けたり、アツアツの鉄板を活用したりして変化を楽しむ−−などが、なごやめしの一般的な特徴に挙げられます。

歴史的に分類して、ひつまぶしや味噌煮込みうどん、きしめんなど江戸時代や戦前から親しまれてきた伝統的な料理を「第1世代」としてみましょう。大正時代からあるという小倉トーストもこの世代に入れられます。

一方、戦後の屋台文化やグルメブームの中で生まれたのが「第2世代」と言えるでしょう。味噌カツやあんかけスパ、手羽先。専門のチェーン店と結びついて、今や全国どころか海外にまで知られるようになりました。台湾ラーメンはその名の通り、台湾料理をベースに大須の「味仙」が独自に考案したもの。いわば外来種の突然変異と言えなくもありませんが、逆になごやめしの懐の深さや貪欲さも表しています。

「世代」としたものの、単純に発祥の年代で分けられるものでもありません。古いものが新しく、逆に新しいものが昔からあるようにも感じられるはずです。甘さや辛さ、濃さ、薄さでも分けられるかもしれません。第1世代と第2世代の境界はあいまいでもあります。しかし、少なくともなごやめしという言葉が認知され、定着したのが十数年前。そこから、また新たな「第3世代」が台頭しているのが今だと言えそうなのです。

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