はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する花輪陽子氏がお答えします。
32歳、正社員として働いています。年収は額面で850万円ほど。現在、1人暮らしをしています。結婚は縁があればしたいですが、しないことも視野に入れています。家族は両親が持ち家で暮らしており、兄は結婚して自宅を購入しています。相続のことはまだ何も考えていません。
ここ2年でインフレ対策と老後資金の確保のために、投資用ワンルームマンションを2部屋と自宅マンション1部屋を購入しました。家具家電も比較的いいものをそろえたので手元のお金が少なくなってしまいましたが、来年から月12万円、ボーナスから年60万円のペースで老後資金およびローン返済資金を積立して運用していきたいと考えています。一方で、ローンが多いのでそちらの返済を優先した方がいいのかもしれないと、順番や配分を悩んでいます。
【保有している不動産とローン内容】
・自宅マンション(1LDK)
購入価額3,180万円
ローン残高3,100万円(35年 変動0.775%と固定1.76%の半々)
・投資用不動産1(1K)
購入価額2,515万円
ローン残高1,930万円(35年 変動1.55%)
・投資用不動産2(1K)
購入価額2,800万円
ローン残高2,710万円(40年 変動1.55%)
不動産投資は2部屋ともサブリース契約を締結しており、今のところほぼマイナスなしでやっています。サブリース契約の金額改定やローン金利の上昇リスクがあることは認識しています。 現状、以下のような選択肢があると考えています。
・不動産投資から返済して未来の収入減による返済負担リスクを減らす
・収益を生まない住宅ローンを先に返す
・自宅・投資関係なく、返済時の利率や借り入れ年数が大きいものから返す
(今であれば住宅固定→投資用不動産2→投資用不動産1→住宅変動)
・低金利のうちは運用に回して、投資利率よりもローン金利が上回ってくれば、そのときに投資資金の一部から一気に返す
ただ、セミナーや本で勉強すると「銀行との関係が悪化するので繰り上げ返済は控えて、次の投資のための手元資金を持っておいた方がいい」との意見や、「長期運用は若いうちから始めた方がいい」という考えも聞きます。一方で、おそらく私の借入枠はいっぱいなので返さないと、次の物件は無理なので自分のものに早くする、リスクを軽減するためにも返した方がいいとも考え、迷っています。
【支出(28万円)の内訳】
・住居費11,4万円
(ローン返済9,3万円、管理費1万円、固定資産税と修繕の自主的な積立金1.1万円)
・食費が5万円(客先常駐のため昼は外食のため高め)
・美容服飾4万円
(うち1.6万円は月1回通う鍼灸の回数券用の積立、0.5万円はデパート積立)
・旅行積立1.5万円
・交際費1.5万円
・水光熱費1万円
・通信費1万円
・新聞0.5万円
・寄付金0.5万円
・雑費0.5万円
・保険料自主積立0.6万円
(医療保険にがん一時金の特約をつけて年払4.4万円ほど。ほか、火災保険や地震保険の更新に備えて若干積み立てている)
残業代や年末調整、確定申告で生活費と貯蓄資金の予算をさらに上回る収入を得た分は、年に4~6回行く趣味の旅行代に充てています。
【すべて運用に回す場合の配分】
・積立NISA:月3.3万円
・積立投信:月0.7万円
・iDeCo:月1.2万円
・個人年金保険:月1万円(米ドル)
・金とプラチナ:月0.2万円ずつ計0.4万円
・積立FX:月1.8万円
・定期預金:月1万円
・ロボアド2種類:月3万円
ボーナスも全額ロボアドでの運用を考えており、ロボアド分でローン返済を、それ以外を引退後の生活資金とし、可能な限りアーリーリタイア(55歳以降)を考えています。
【現在の貯蓄(280万円ほど)の内訳】
・現金預金:140万円
・事業貸付:33万円(満期あり)
・債券:35万円(個人向け国債3万円、外債32万円)
・FX:12万円
・iDeCo:11万円
・ロボアド:3万円
・株と投資信託:50万円
(外貨MMF:27万円とNISA:23万円。NISA分は5年内に徐々に利確して取り崩して興味のある株主優待と配当目的の株式にシフト)
将来、円安およびインフレリスクがあると個人的に考えており、外貨とモノの割合は高めかもしれません。
情報量が多岐にわたり申し訳ございませんが、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
〈相談者プロフィール〉
・女性、32歳、未婚
・職業:会社員
・居住形態:持ち家(マンション)
・住んでいる地域:東京都
・手取りの世帯月収:40万円
・毎月の支出目安:28万円
花輪: 全体のポートフォリオが不動産に偏りすぎています。また、サブリース契約のデメリットを本人も理解しているということですが、契約当初はマイナスがないかもしれませんが、将来的には収入が大きく減る可能性もあります。
運用よりも返済を優先させて
ローンの残債が多い上に、手元にある資産も事業貸付やFXなどリスクが高いです。運用よりも繰上げ返済を優先させて、全体のリスクを減らしましょう。
事業貸付は知り合いのベンチャー企業などに貸付をしているということでしょうか。債券は発行体の信用リスクを精査するのが非常に難しいのです。ましてや知り合いの会社などの場合はなおさらです。最悪の場合、お金が戻らない覚悟で、そのお金を当てにしない方が良いかもしれません。
まずは、こうした不必要にリスクを取っているものをやめて、繰上げ返済など確実に利息を減らせるところにお金を振り向けましょう。来年から月12万円、ボーナスから年60万円のペースで投資に回そうと考えているというお金も繰上げ返済に利用したほうが得策です。
返済の優先順位はリスクの高いものから
また、返済の優先順位はリスクが高いものから考えましょう。基本は自宅・投資用関係なく、金利や残りの返済期間を加味する必要がありますが、この先の金利上昇リスクを考えて、変動金利のものから返していきましょう。
住宅ローンの方の金利1.76%は固定金利なので、全期間固定ならば借りている間は返済額が増えないので、安心してゆっくり返済しても大丈夫です。10年以上の長期の固定金利の場合は、その期間はゆっくり返しても大丈夫です。3年など固定期間が短い場合は、変動金利と同じように返済を急いだ方がよいでしょう。
問題は変動金利のローンです。金利上昇時に一定の間隔で金利が見直されるからです。この低い金利は期間限定であって、決して返済期間中ずっと受けられるとは考えないでください。そのため、変動金利のものは安全になるくらい元本を減らしておきたいのです。
投資用不動産のローン金利の方が住宅ローンの変動金利よりも高いので、次の順に返済を考えましょう。また、期間の長いローンから返済を進めましょう。
投資用不動産2→投資用不動産1→自宅
アメリカは段階的に利上げを始めています。日本以外の世界の流れは利上げ傾向にあります。日本も永遠に量的緩和を続けることはできないでしょう。
金利が上昇したら固定金利に借り換えれば良いと思われる人も多いです。ですが、景気動向が金利に反映されるのは固定金利のほうが早いのです。金利が上がってきたと思ってから切り替えても、すでに固定金利が上がっている可能性もあるのです。
年月が経つほど家賃収入が減ることを考慮して
28年後の60歳、あるいはアーリーリタイアを考えているならリタイアまでに、ローンの大部分を返せるようにしたいです。その頃には不動産も古くなっているために、現在と同じほどの収入は生み出せなくなる可能性が非常に高いからです。
ローンの残債がトータルで7,740万円なので、仮に28年で返すならば月30万円近い返済になります。
不動産の費用を毎月の支出とは分けて考えていると思いますが、月12万円、ボーナスから年60万円の余裕資金を返済にまわしていけば早期返済も可能でしょう。老後に家賃収入が減り、多額のローンが残ってしまったということにならないためにも繰上げ返済に励みましょう。