はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する深野康彦氏がお答えします。
転勤族のため、30年間社宅住まい、現在も兵庫県西宮市の社宅に入居中です。30代のとき、都内にマンションを取得しましたが、その後、関西に転勤することが決まり、一昨年に都内のマンションを売却しました。売却金は全額、投資信託で運用中です。2018年3月には60歳になり、定年退職し、社宅も退去します。現在、夫婦2人暮らしで、2人とも健康です。定年退職後、この年齢でマンションを購入すべきか、賃貸で対応すべきか、どちらが賢い選択でしょうか。また、退職金を含む、資産全体の運用方針についてアドバイスをお願いします。
【基本情報】
・家族:自分58歳、妻56歳(子供2人は結婚し、独立)
・職業:本人サラリーマン(金融・一部上場)、妻パート
・年収:本人1,000万円、妻80万円
【資産】
・投資信託:3,000万円(マンション売却金をTOPIX投信とグローバル株式インデックスファンドの半々で運用中)
・定期預金:900万円
・一時払終身:300万円
・退職金:4,000万円(60歳)
〈60歳以降の収入等の情報〉
・現在の会社に年収250万円程度で65歳まで再雇用される予定。
・401k積立は1,300万円です(60歳で引出し、運用したいと考えています)
・62歳からの年金収入は年間約180万円
・65歳からの年金収入は年間約500万円(国民年金・厚生年金で250万円、企業年金基金250万円終身)
(50代後半 既婚・子供2人 男性)
深野: そろそろリタイアが具体的になり始めたことが、ご質問からひしひしと感じられます。
いただいた資料に支出に関する記述がなく、また、完全にリタイアされた後のライフスタイルに関する記述もありません。この部分は推測を交えて回答させていただくことをご了解ください。
ゆとりある老後の生活費、月約35万円
結論から言えば、マンションを購入しても大丈夫だと思います。ただし、購入する際には保守的(安全策を取る)に住宅ローンは組まず、全額現金で購入する、言い換えればマンションの売却代金である3,000万円以内の物件とするべきだと思います。
公的年金と企業年金の2つの年金が受け取れる65歳までは、家計が赤字(金融資産の取り崩しが必要)となるかもしれませんが、65歳以降は、統計数字から見れば赤字になる可能性は少ないと思われます。
総務省の家計調査(2017)によれば、60~69歳の毎月の生活費は約29万円、70歳以降は約23万円だからです。ご質問者は収入が高いことから、平均値より支出が多いと思われます。
しかしながら、公益財団法人 生命保険文化センターのアンケート調査(2016)による、ゆとりある老後の生活費でも約35万円なので、十分余裕があるでしょう。
賃貸の方が金融資産の取り崩しが早まる可能性も
65歳時点ではかなりの金融資産を保有しているはずですが、ご質問者の収入を考慮すれば、65歳以降も医療費の負担は3割負担(75歳以上の後期高齢者になっても)、介護保険も2割負担になるでしょう。
今はご夫婦共に健康であったとしても、これから徐々に医療費負担は増えていくことが予測されるため、もしもに備え、ある程度の金融資産を保有しておく必要があります。
賃貸に住まれた場合、どの程度の家賃の物件を借りるのかは定かではありませんが、収入から推測すれば十分賃料を払っていけると推測できるものの、金融資産の取り崩しはマンション購入よりも早くなる可能性があるので、賃貸は控えた方が良い気がします。
確定拠出年金は引き出さずに、非課税メリットを活用
そして、資産運用全体で見ると、現在の状況はややリスクを取り過ぎな感じがします。
確定拠出年金(401k)を除けば、現在の金融資産額は4,200万円。そのうち、3,000万円が投資信託なので、7割強の資産がリスク性商品になっているからです。
確定拠出年金が全額投資信託で運用されていれば、その割合はもっと高くなります。収入が多いためリスクを取った運用ができるのでしょうが、これからは徐々にリスク性商品での運用は減らしていくべきでしょう。
60歳時点では定期預金などの安定資産6割、リスク性商品4割前後(確定拠出年金含む)を目指すべきだと思われます。
ご質問には、確定拠出年金(401k)を60歳で引き出し運用される予定との記載がありますが、確定拠出年金の運用益は非課税なので、この引き出しは70歳まで遅らせて(非課税のメリットを活用)、退職金や定期預金などを優先的に取り崩した方が良いと思われます。
リスク性商品での運用については確定拠出年金を優先されると、投資コストを抑えることができるはずです。