はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は内藤忍氏がお答えします。
今年の秋に30年勤続のリフレッシュ休暇を取ることにしました。すでに子供2人は就職し、家計も独立しています。2年前から老後の資金を考慮して、投資信託などを始めました。現状の計画で問題がないかどうか専門家のご意見をお聞かせください。この休暇をよい機会に、定年後の仕事や生き方をじっくりと考えてみるつもりです。
【現在の収入と支出額】
年収は額面で1,200万円程度。妻はアルバイトで月6万円程度の収入があります。基本的な生活費は月27万円ほどです(食費、車、固定資産税、生活用品、水道光熱費、新聞通信等)。
【今後の収入と予測される特別な支出】
2年後の役職定年後、年収は現在の8割程度になる見込みです。定年は60歳で退職金は2,500万円、確定拠出年金が500万円程度の予定です。また、60歳まで毎月20万円を財形や投資信託にまわす計画を立てています。
【保有する金融資産・貯金】
財形貯蓄が500万円、投資信託200万円、持株会500万円相当を保有しています。
【現在の負債(住宅ローン・借金など)】
住宅ローンは毎年150万円払い続けて、残り250万円となりました。子供2人の奨学金が合わせて150万円残っています。
【保険契約の有無】
500万円の変額保険終身型に加入し、65歳まで払い込み予定です。医療保険はガン保険、夫婦合わせて毎月1万円程度。掛け捨て型です。
(50代後半 既婚・子供2人 男性)
内藤: ご質問をありがとうございます。シニアの資産運用で気をつけなければならない点は2つあります。
シニアの資産運用で注意すべき2点
1つは過剰なリスクを取らないことです。たとえば、株式の個別株に投資をするような場合、その1つの会社の信用リスクを大きく取っていることになります。
大手企業であっても、会社の不祥事、天災リスク、事業環境の激変などによって、業績が急激に悪化するケースは珍しくありません。
このようにリスクを取り過ぎることによって、老後資産が想定外に減ってしまうリスクは取るべきではありません。
そして、もう1つは運用の目的を、キャピタルゲイン(値上り益)中心の資産運用から、インカムゲイン(金利、家賃のような定期的な安定収入)に徐々にシフトさせていくことです。
ご質問者の場合は今後環境の変化によって、毎月の手取りの収入が減っていくことになります。退職後は年金生活になって、さらに収入が減ってしまうリスクも考えられます。
生活スタイルの変更によって支出を抑える努力も必要ですが、同時に年収の低下を補うようなインカムゲイン資産の保有が重要になってくると思います。
現状、日銀のマイナス金利政策によって、円の金融資産の金利水準はほとんどゼロに近く、円によるインカムゲインは望めません。
インカムによる運用利回りを高めるには、「円以外の金利の高い外貨で運用を行って為替リスクを取る」「社債などの債券を使って企業の信用リスクを取る」「金融資産以外の不動産などの現物資産へ投資して、流動性リスクや空室リスクを取る」といった方法が考えられます。
リスクなしにはリターンは狙えない
いずれの方法でも、新たなリスクを取ることによってのみ、リターンを狙うことができる点に注意が必要です。
外貨運用は円高によって資産が目減りするリスクはありますが、一定の比率で外貨資産を保有するのは、逆に円安時のリスクヘッジとなります。
現在保有している投資信託や確定拠出年金の投資先資産のうち、外貨資産がどのくらいあるのかをチェックして、資産のどの程度を外貨資産に振り分けるかを考えてみましょう。
高いインカム収入が期待できるのは国内不動産投資
また、社債のような個別企業の信用リスクを取ることは個人的にはおすすめしません。株式投資と同じように、1つの企業が将来直面するリスクを予想することは極めて難しいからです。
東証一部上場の大手企業であっても経営悪化によって、思わぬ投資の失敗につながる可能性は否定できません。
そのため、インカムゲインを手に入れる方法として、私が注目しているのは国内不動産への投資です。
物件のリスクや金融資産に比べ、流動性が低いといったデメリットはありますが、その分高いインカム収入が期待できます。
シニアになるほどお金に稼いでもらうことが大切
1棟ものの不動産は投資金額も大きく、リスクが集中します。しかしながら、ワンルームマンションであれば、投資金額も1,000万円台からと、ほかの不動産に比べ手掛けやすく、またローンによる借入を活用することも可能です。
そして、中古ワンルーム市場は流動性が高く、不動産の中では比較的売買が容易ですから、売却にも時間があまりかからないというメリットがあります。
不動産投資の場合、現状の家賃利回りと借入金利の間に3~4%程度の金利差があります。将来の金利動向には注意が必要ですが、このイールドギャップも不動産投資のメリットの1つになります。
とはいえ、金融資産への投資に比べ、投資金額が圧倒的に大きくなります。セミナーや書籍などで情報収集し、納得できる投資と判断した上で始めてみるのが鉄則です。
シニアになればなるほど、自分で稼ぐよりもお金に稼いでもらうことが大切になります。リスクをしっかり把握しながら、自分のライフスタイルに合った資産運用の方法を実施するようにしましょう。