はじめに

日本では4月に入ってから各所で値上げのニュースが散見されます。内閣府が発表している月例経済報告の基調判断を見ても、最新号(3月)では前月の「消費者物価は横ばいとなっている」から、「消費者物価はこのところ緩やかに上昇している」と表記が変更されました。長いこと政府が掲げている「デフレ脱却」が実現されるのかに注目が集まります。

また、日本だけでなく近隣諸国であるアジア各国の状況を把握することで、マーケットや経済を高いレベルで分析できるようになるため、今回はアジアの他の国の物価事情も少し見ていきましょう。


日本では物価は上昇基調にある

総務省が3月23日に公表した消費者物価指数を見てみると、2018年2月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比+1.0%となりました。コアCPIの上昇率が1%台となったのは、2015年3月の前年比+2.2%以来ですが、消費税を除くベースでは2014年8月の前年比+1.1%以来3年6ヵ月ぶりのことになります。

しかし、物価の基調は上昇傾向にあるものの、「デフレ脱却」については慎重に見たほうがいいかもしれません。2016年末以降のエネルギー価格の大幅上昇の反動で目先は前年比での押し上げ寄与が縮小することや、昨今の円高の影響、昨年6月以降の改正酒税法の効果が一巡することを考えると、まだ本格的な物価上昇に転じたとの判断は早いと考えます。

台湾のトイレットペーパーショック?

現在筆者が生活の拠点を置いている台湾でも、物価上昇に関する大きなニュースがありました。今年の2月下旬、スーパーに行くと、あるコーナーの陳列棚だけが空っぽになっているという光景を目にしました。トイレットペーパーの陳列棚でした。

メーカーが小売店に対し、「原材料となる短繊維パルプ価格が高騰したため、トイレットペーパーの価格を3月までに10%以上値上げする予定だと通告した」というニュースを受け、前述のように空っぽになった商品棚の写真が、SNS上で拡散されました。これによって、ある種のパニック買いの様な状況があらゆるスーパーで起きてしまいました。

困ったなぁと思っていましたが、台湾政府は即座にアクションを起こしました。政府は公式にパニック買いをしないよう呼びかけ、行政院の消費者保護所は在庫が確保されている旨を発表しました。

また、政府は大手小売企業4社に対して、3月半ばまで値上げをしないよう確約を取り、公平交易委員会(日本の公正取引委員会に相当)も違法な便乗値上げには罰金を課すと発表しました。その結果、今では目立ったパニック買いは見られなくなっています。

インドネシアでは燃料価格に補助金

筆者がかつて住んでいたインドネシアでも、物価関連のニュースがありました。あまり同国の政治や経済には馴染みもないと思いますので、少し振り返ってみましょう。

2014年10月、10年ぶりに同国で政権交代が起き、ジョコ・ウィドド大統領が誕生しました。筆者がジャカルタに住んでいた頃、彼はジャカルタ特別州知事であり、当時から彼の手腕を評価する声をよく聞いていました。

ジョコ政権は発足すると、燃料補助金を原則廃止し、これまで補助金として使ってきた財源をインフラ開発に回しました。その結果、2兆円近い補助金を削減しながらも、インフラ開発を中心として安定的な経済成長を実現してきました。

しかし、ここに来てインドネシアでもエネルギー価格や人件費の上昇が国民生活に影響を与え始めました。同国では来年4月に大統領選挙が予定されているため、ジョコ政権は支持率の低下につながる燃料費の高騰を避けるため、軽油などに対する燃料補助金を復活する方針を固めました。

今後はレギュラーガソリンまで補助金の対象を広げるのか、また補助金復活に寄ってインフラ開発がこれまでより減速し、経済成長に陰りが出るかに焦点が集まります。

各国物価事情、マーケットへの影響は?

前述の通り、日本においてはまだ「デフレ脱却」と考えるには時期尚早と思いますので、現時点では本件が直接マーケットに大きな影響を与えるとは思いませんが、日本のマーケットにおいては“物価“を1つの大きなテーマとして考える投資家は多いため、今後も注目し続ける必要があります。

一方で、インドネシアではマーケットに大きく影響が出る可能性があると思われます。同国の経済は個人消費を中心とする内需主導型の経済であり、物価上昇が直接経済に大きな打撃を与えかねません。

今回の補助金復活によるサポートが不十分なものになり、一方で財源の減少によってインフラ開発も減速するようであると、同国経済の両翼である消費と投資が同時に崩れる可能性もあります。2月下旬から下落を続けてきた同国株式市場も直近では持ち直しており、ひとまずは補助金政策の行方を見てみようという投資家の期待感が表れているのかもしれません。

(文:Finatextグループ アジア事業担当 森永康平 写真:ロイター/アフロ)

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