はじめに

人間関係の省略に使われるお金

──そう聞くと、贈与を中心とした経済の世界はたくさん気を使うし大変そうですね。お金は「人間関係を省略するためにある」とおっしゃいましたが、キャッシングやカードローンを利用する人が後を絶たないのも、人に借りるよりも楽だからとか、頼れる人がいないからという面も大きいのかもしれません。

それはあるでしょうね。ただ、メディアでは人間のつながりの素晴らしい面ばかりが強調されがちですが、当然悪い面もあります。その点も本には正直に書きました。たしかに、贈与や共有が日常だった昔の社会は人間関係が濃密すぎて付き合いも大変だったと思いますし、村八分なんてそのデメリットの際たるものですよね。

村八分というのは、助け合いの輪の中でメリットは受けるけれど協力はしないという人が出てきた場合、制度維持のための制裁手段として発動されたことが多かったみたいですから。

だから、協力的な人間関係は希薄だけど、そういうしがらみも断ち切った今の社会は合理的といえば合理的なんです。でも、今はそれがいきすぎちゃっている状態だから、もうちょっとかつての経済を見直してもいいんじゃないかと思いますね。

贈与・共有の世界ってある意味大変なんですけど、相手へのケアと気遣いに満ちていて、ものすごく人思いですよね。相手が今何を必要としているのか、何が好きなのか、困っていないだろうかとか、相手のことをすごく考える世界。

資本主義のなかでは自分の利益の追求が第一になるので、相手から奪ったり、競争で負かしたりする空気が広まってきますが、それとはまるで違う。自分もそういうことをよく考えるようになりましたし、それが面白いところでもあるんですよ。

──失礼ながら、鶴見さんはいかなる場合も人付き合いやつながりが大嫌い、というイメージを持っていました(笑)。

鶴見:ずっと人間関係=大変と思って生きてきたんですけど、それは学校とか会社とか、そういうランダムに集まった人たちで人間関係をやれと強いられた場合だったからで、今でもそういうものは大嫌いです。

それでも、自分から選んだ相手とのやりとりの中ではそんなに嫌なこともなくて、人間関係の見方も変わりましたね。お金をなるべく使わない生活を実践してみて、今のところはいい面の方がすごく優っていると感じています。

後半へ続く:老後の不安を減らす、貯金「以外」の方法は?

『0円で生きる―小さくても豊かな経済の作り方―』 鶴見済 著



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