はじめに

そして、フランス革命へ

ルイ16世は免税特権を享受していた貴族や聖職者からも税金を徴収しようとしますが、パリ高等法院はこれを拒否。フランスの各身分の代表者が集まる「三部会」を開かないと、新税は導入できないと告げます。

当時のフランスでは、カトリック聖職者が〝第一身分〟とされ、もっとも豊かな生活を送っていました。続く〝第二身分〟は貴族階級で、聖職者とともに納税を免れていました。それ以外のフランス民衆が〝第三身分〟であり、これら三つの身分の代表者が集まらなければ国家の重要な課題は議論できないとされていたのです。

そして5月5日、実に175年ぶりに「三部会」が開催されることになりました。

結果は散々でした。第三身分の人々は、自分たちが経済的にも政治的にもどれほど不公平な立場に置かれているのか、「三部会」を通じてハッキリと自覚したのです。もはや政治の流れを止めることはできませんでした。6月17日には平民たちが「国民議会」を結成し、6月20日には有名な「球技場の誓い」が交わされました。

6月23日、パリ市民の間をとある噂が飛び交いました。王妃マリー・アントワネットが、ネッケルを罷免するよう国王にねだったというのです。怒りに駆られた大衆がヴェルサイユ宮殿に繰り出し、門扉の前を埋め尽くしました。彼らを安心させるためにネッケルが姿を現すと、大衆は拍手喝采で迎えたと言われています。

一方、王室関係者たちはこれだけの群衆が簡単に集まることに慄然としました。ルイ16世はパリとヴェルサイユに軍隊を集結させ、国民議会に監視の目を光らせるよう命じます。

7月11日、ネッケルはパリをうろつく兵士の多さに苦言を呈しました。民衆に対する圧力であることは明らかだったからです。しかしルイ16世は庶民の不満を顧みず、またしてもネッケルを罷免してしまいます。

そして7月14日、政治犯や思想犯を収監していたパリのバスティーユ監獄が、怒れる群衆の襲撃を受けました。かくしてフランス革命の火ぶたが切られたのです。

租税国家の存在意義

ネッケルの例が示すのは、適切な情報開示が国家の安定にとっていかに重要かということです。情報を意図的に改竄したり隠蔽したりすれば、それは国民の激しい不信を招き、ときには最悪の事態――革命――をもたらします。

中世から近代にかけて、国家というものは「家産国家」から「租税国家」へと発展したと言われています。

中世までは、国家運営は王家の私的な財産によって賄われていました。これを「家産国家」と呼びます。現在でもブルネイのように、王室が石油やガスで潤っているおかげで個人の所得税・住民税が課されていない国があります。一種の家産国家と呼べるでしょう。

ヨーロッパ諸国では近世以降、戦争の大規模化にともない戦費も増大しました。王室の財産だけでは国家運営を賄いきれず、かといって借金にも限界があります。最終的には、国民から徴収した税金によって国家を運営せざるをえなくなりました。

「租税国家」の誕生です。

国民は税金を納める代わりに、議会を通じて税の使い道を監視させるように要求しました。現代では当たり前になった議会制政治や国民主権は、租税制度の発展にともない産声を上げたと言えるでしょう。

イギリスでは17世紀の清教徒革命や名誉革命によって、この「納税者による監視」の習慣が根付いていました。一方、フランスは情報開示の面で大きく遅れていました。このことが庶民の不満を制御できないレベルまで膨らませて、革命をもたらしてしまったのかもしれません。

このような歴史的経緯からいえば、納税と正確な情報開示はセットであるべきだと考えられます。

もしも政府が積極的に情報の改竄や隠蔽を行うのなら、それは納税者の不信を招くだけでなく、徴税そのものに対する正当性を失わせます。私たちが税金を納めるのは、それが日本の繁栄という目的のために正しく使われると信じているからに他なりません。

国家に対する国民の信頼を維持するためには、公文書管理の徹底は避けて通れないでしょう。

■主要参考文献■
ジェイコブ・ソール『帳簿の世界史』文藝春秋(2015年)
諸富 徹『私たちはなぜ税金を納めるのか 租税の経済思想史』新潮選書(2013年)

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