はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は井戸美枝氏がお答えします。
夫は会社員で、妻の私は専業主婦です。これから扶養内でパートを始め、月8万円ほど増える予定です。そのため、月収は58万円程度に増額予定です。現在、夫婦合わせて貯金が4000万円ほどあります。300万円ほどを普通預金に残し、残りは複数のネット銀行の1年定期に預け、更新し続けています(金利は現在0.2%前後、各行1,000万円を上限としています)。ほかに、私の正社員時代の持ち株が200万円程度、夫は持株会で100万円程度の持株があり、積立を継続中です。年間250万円ほど貯金が増えます。極度の節約等はしていません。必要なものや欲しいものは適度に購入していますし、レジャー費等も使用しており、家計に対してストレスはありません。
保険は、自動車保険と子供の個人賠償責任保険のみで、生命保険や医療保険等には夫婦ともに入っていません。いざというときは、公的保険と貯蓄で対応するつもりです。住宅は賃貸で、今後も購入予定はありません。子供は1人の予定です。以上のような状況を踏まえ、今後の資産運用に関するご相談です。
家を建てる予定もなく、子供もまだ小さいので教育費もかかりません。ただ、しばらく使う予定のないお金をずっと定期預金に預けておくのをもったいなく感じています。一部を資産運用したいと考えていますが、何割程度を投資するのが妥当でしょうか。投資先は、以下のような長期分散積立投資を開始する予定ですが、これだけでは多くが定期預金として残ってしまいます。
・夫の企業型確定拠出年金を開始する。
(これまでは掛金を賞与扱いで受け取ってきました)
・夫のiDeCoを開始する。
・夫婦でつみたてNISAを開始する。
投資信託の購入も考えていますが、種類が多く、何を買ったらいいのかわかりません。運用をお任せできるロボアドバイザー(ウェルスナビ等)にも興味があり、少額から開始してみたいと考えています。
なお、投資に関する考え方としては、投資にリスクがあることは承知していますし、余剰資金を使用してある程度のリスクを取るつもりはあります。元本割れも許容できます。ただ、不動産投資等には消極的です。外貨は、海外通販向けに円高時に少し外貨預金を作っておく程度ですが、リスクが大きそうで敬遠しています。株はNISAで少し試してみましたが、少しの利益を確定して満足し、後が続きませんでした。アドバイスをお願いいたします。
〈相談者プロフィール〉
・女性、36歳、既婚、夫(35歳・会社員)、子供1人(3歳)
・職業:パート
・居住形態:賃貸
・住んでいる地域:栃木県
・手取りの世帯月収:55万円(賞与込み)
・毎月の支出目安:34万円
井戸: ご相談ありがとうございます。
まずは目標金額を考える
「使う予定のないお金を何割程度資産運用に充てるか」ということですが、その前に「いつまでに、どのくらいのお金を準備したいか(必要になりそうか)」を考えましょう。
予想できる出費としては、お子様の教育費用でしょうか。家計に余裕がありますので、今から退職後の生活費を準備するのもよいでしょう。簡単に「20年後に3,000万円」など、ざっくりとした目標でもかまいません。
目標額が決まれば、毎月の貯金額からどれくらい不足しそうか、簡単に計算してください。もし「貯金額だけで充分足りそう」であれば、無理に運用する必要はないかもしれません。
10万円を20年間積み立てると…?
参考までに、私の考えを述べます。
約1年分の生活費を普通預金に確保できていること、年間250万円の黒字があること、お子様の教育費がかかる高校生になるまで10年以上あること。これらを踏まえると、しばらく使う予定のないお金から毎月10万円前後を、資産運用に回してもよいのではないでしょうか。
仮に、毎月10万円を20年間積み立てた場合、積み立てる元本は2,400万円。運用利回りが平均5%(※)だとすると、運用益が約1,700万円で(再投資して複利計算した場合)、最終積み立て金額は約4,100万円になります。
こうしたシミュレーションは、証券会社などのウェブサイトで行えます。毎月の積立額、運用利回り、運用期間を入力すれば、運用した場合のおおむねの金額を計算してくれますので、そこから調整して、毎月の積立額を算出してもよいですね。
※運用利回りは、10年以上の運用期間が確保できて、インデックス運用の投資信託に投資する場合、年平均5%前後が現実的だといわれています。まずは、5%前後で計算してください。
運用益が非課税の税制優遇制度を優先させて
次の質問に参りましょう。
・夫の企業型確定拠出年金を開始する。
・夫のiDeCoを開始する。
・夫婦でつみたてNISAを開始する。
以上の3つで、長期分散での投資を考えてらっしゃるとのこと。すべて賛成できます。
ただ、配偶者の方の企業型確定拠出年金によっては、iDeCoに加入できない場合があります。規約を確認してみてください。もし可能であれば、加入をおすすめします。
注意していただきたいことは、iDeCoで積み立てたお金は60歳まで引き出せないということ。お子様の教育費など出費が多い時期には、無理のない金額に設定してください。掛け金は1年に1度変更できます。
一方のつみたてNISAですが、投資できる金額は年間40万円まで。非課税での運用期間は、最大20年間です。積み立てたお金はいつでも引き出せますが、運用益が非課税となるのは最初の売却時のみです。現状、上限額いっぱいまで積み立ててよいかと思います。
また、つみたてNISA内で購入できる投資信託は「販売手数料がかからないこと」「信託報酬が一定以下であること」など、金融庁が定めた基準をクリアしたものだけ。長期運用に向いている商品があらかじめ選ばれているといえます。
これらの税制優遇制度を使った上で、まだ投資する金額に余裕があれば、通常の課税口座を使いましょう。
資産運用はどれを選べばいい?
さて、その運用方法ですが、おっしゃる通り、投資信託の購入が無難でしょう。
不動産への投資はリスクが高いかもしれません。将来値上がりしそうな物件や、利回りの高い物件を探すには、多くの手間がかかりそうです(失敗をする可能性もあります)。
外貨預金は、外貨を円に換える際の為替レートに大きく影響を受けます。将来の為替レートを予想することは難しく、資産運用にはおすすめできません。
投資信託にはたくさんの種類があり、何を買っていいかわからなくなるのも、うなずけます。なるべく手間をかけずに、堅実に資産運用したい場合は、インデックス運用を行う投資信託に、毎月一定額を投資するという方法がおすすめです。
投資信託はインデックス運用が無難
インデックス運用とは、「日経平均」や「NYダウ」といった株価指数と同じような動きを目指す運用方法のこと。このインデックス運用を行う投資信託のことを「インデックスファンド」といいます。
インデックスファンド以外にも「アクティブファンド」といって、市場平均を上回る運用成績を目指す投資信託もあります。しかし、投資信託によっては市場平均を下回るものも多くあり(市場平均を上回るファンドもいくつかあります)、手数料が高い傾向にあります。
長期的に運用する場合は、市場全体の平均的な運用成績を得ることができ、他の投資信託よりも手数料が安い、インデックス運用の投資信託が有利だといわれています。
インデックス運用に関しては、「“税金ゼロ”の資産運用革命(田村正之著/日本経済新聞出版社)」や「『つみたてNISA』はこの7本を買いなさい(朝倉智也著/ダイヤモンド社)」でわかりやすく説明されていますので、運用される前にはご一読いただくとよいかと思います。
最後に、従業員持ち株会で積み立てていらっしゃるとのことですが、積み立て額を減らしてもよいかもしれません。というのも、勤め先の株価の変動によって資産が増えたり減ったりする一方で、毎月の収入も同じ会社から得ているからです。
リスクを分散させるという点において、あまり多くの金額を積み立てない方がよいでしょう。