ゴールデンウィークも迫り、本格的な行楽シーズンがやって来ます。お出掛けのお供や日常的な弁当、炊事で「お米」の味や銘柄を気にする人は多いのではないでしょうか。消費量が減っているとはいえ、日本人の主食である米。そのつくり方から食べ方、買い方の最前線を探ってみましょう。


「ペットボトル詰め」で首都圏進出

東京の新宿マルイ本館に昨年11月、「KOMEKUUTO(コメクート)」という名のショップが開店しました。売り物は「ペットボトル入り」の米。普通はお茶やジュースとして売られているペットボトルの中に、2合分の精米がぎっしり。「コシヒカリ」や「つや姫」など、銘柄によって色とりどりにデザインされたラベルが張られ、ずらりと棚に並べられているビジュアルは斬新です。

最近の一番人気は「新之助」。米どころ、新潟県で新たなブランド米として売り出され、メディアでも取り上げられて人気上昇中の銘柄です。コメクートでは平成29年産の新米、しかも無洗米を詰めているので、サッと炊飯器に入れて食べられる手軽さも受けています。

「特に30~40代の女性が、ギフト用に買っていかれます」と、店長代行の掛端夏紀さん。価格は1本500円前後。数種類を組み合わせたギフトセットや、子どもの写真などをあしらってオリジナルラベルをつくるサービスも。昨今ブームの糖質制限ダイエットや玄米食の見直しの流れから、新宿出店に合わせて雑穀入りや玄米100%のボトルも開発したそうです。とにかくトレンドを押さえたい、トレンドをつくりたいという思いをひしひしと感じさせます。

店舗を運営するのは青森県三沢市の「PEBORA(ペボラ)」。親会社は「川長」という地元の青果・米穀卸会社で、中元や歳暮などの贈答品として米のペットボトル詰めというアイデアを思いつき、「ペットボトルライス=PeboRa」のネーミングで2013年から販売。15年4月に初の直営店として「コメクート」を八戸市にオープン、県内2店舗目の三沢店も反響を呼び、一気に首都圏進出となったのです。

全国の自治体と連携して新銘柄を周知したり、自然農法などにこだわる農家の米をピンポイントでアピールしたりするなど、幅広いコラボも進んでいます。消費者がお米と出合う「新しいカタチ」として期待されます。

「ハイブリッド米」にかける若手農家

生産者側からも、新しい技術や品種で勝負を掛ける動きが見られます。

滋賀県近江八幡市の「イカリファーム」。琵琶湖のほとりで肥沃な田畑を耕し続けてきた農家の3代目、井狩篤士さんが設立した農業法人です。

「効率化して、きちんと儲けるのがこれからの農業」と思い立った井狩さんは、ITや「トヨタ方式」も取り入れて大胆に経営改革。主力の米もいち早く新品種の栽培に取り組んできました。そして今、「ほれこんでいる」のが「しきゆたか」という品種だそうです。

味はコシヒカリに負けないほど甘く、食感はもっちり。そのうえ、粘りや柔らかさの指標となるアミロース分が適度に低いため、冷めても良食味を保てるという特徴が。「まさに中食、外食にぴったりなんです」と井狩さん。

滋賀県近江八幡市でハイブリッド米「しきゆたか」を生産する井狩篤士さん

収穫した「しきゆたか」は米卸を通して中食、外食業界向けに出荷。ただし、決して安売りされているわけではなく、こだわりのあるレストランや駅弁などに使われ、安定した価格で取り引きされているそうです。2年前には滋賀県の「ふるさと納税」の返納品にも採用されました。米袋には、井狩さんの似顔絵と共に「次世代型の新しいお米」とプリントされています。「次世代型」とはどういう意味なのでしょうか。

「しきゆたか」は愛知県の水稲種子開発ベンチャー「水稲生産技術研究所」が名古屋大学と共同開発、大手商社の豊田通商が販売を手掛けています。当初は「ハイブリッドとうごうシリーズ」の名称で開発されており、井狩さんは関係者の紹介で7年ほど前の試験栽培段階から協力してきたそうです。

「ハイブリッド」とは、異なる系統の品種をかけ合わせて、どちらか一方の優れた性質を第一世代にだけ均等に発現させるもの。遺伝子組み換え技術ではなく、F1(エフワン、一代限りの雑種の意)とも呼ばれ、国内の野菜や果実の栽培では既にほとんどこうした種類のタネが使われています。多収性や耐病性を持たせられる一方で、第二世代の作物は不ぞろいになるため、同じものをつくるために農家は毎年、新しいタネを購入しなければなりません。

タネをつくるには、単純に考えて耕地が2倍必要になります。一つの系統のおしべの花粉を、異なる系統のめしべに受粉させ、タネができればおしべの系統は必要がなくなるからです。タネ生産については効率がよくないため、コシヒカリなどの従来品種に比べると、しきゆたかの種子価格は5倍ほども高くなります。しかし、収量はコシヒカリの1.2倍から1.5倍。また、栽培期間も従来品種より長く、収穫時期をずらして耕地や設備を有効に活用することができます。しかも食味が良好で、単価も高く設定できるのであれば農家にとってメリットは十分。イカリファームでは現在、生産する米の半分近くが「しきゆたか」になっており、種子代の高さを補って余りあるそうです。

こうしたハイブリッド米の生産、流通はまだ日本では限られています。開発するのが主に民間企業で、導入コストの高さに加えて「肥料や農薬もセットで購入させられる」との懸念が強いからです。井狩さんは「そうした縛りはまったくない」と強調しますが、現状ではこうしたリスクもきちんと見極めて、自立した経営のできる大規模農家にとって適したものだと言えそうです。