地域活性化に貢献する「幻の米」

対照的に、昔ながらの品種を紹介しましょう。「ミネアサヒ」という愛知県の銘柄米です。

自動車の街で知られる豊田市でも、最も山深い北東部。「稲武(いなぶ)」と呼ばれる地区に県農業総合試験場の研究施設「山間農業研究所」があります。ミネアサヒは1960年代、当時「実験農場」だった同研究所が、コシヒカリの突然変異系統を元に交配を重ねて生み出しました。

コシヒカリゆずりの粘りとコシをもったおいしさ。稲は短めで倒れにくいと評判に。名称は食味のよい伝統品種であった「旭」と、中山間地を表す「峰」に由来しているそうです。

「おいしいけれど、平坦地ではつくれない。中山間地の農家は、収穫したらその地域だけで出回らせて、農協にもなかなか集まらなかったことから『幻の米』と呼ばれ出したようです」と、研究所で育種を担当する「稲作研究室」の加藤恭宏室長は説明します。

その「幻」の希少価値が見出され、地元ではJAや自治体も特産品として積極的にPR。道の駅にはミネアサヒの新米の袋入りから米粉を使ったパンやクッキー、カステラなどさまざまな商品が並び、ネットでも「めったに手に入らない人気米」などとして売られるようになっています。

愛知県豊田市稲武の道の駅で売られる「ミネアサヒ」を使った商品

ただし、こうして地域活性化にも役立っている希少品種の米づくりに今、転機が訪れています。

ミネアサヒのような米は「種子法」という法律で、都道府県による種子の生産と管理責任が定められていました。

正式名称は「主要農作物種子法」といい、戦後の食糧難を背景に稲、麦、大豆といった主要農作物の安定生産を図る目的で1952(昭和27)年に制定されました。しかし、そうした歴史を持つ法律が、今年4月で廃止されたのです。

国は種子法によって都道府県が安価に種子を流通させているため、民間企業の種子市場への参入意欲が削がれていると指摘。種子法を廃止することで競争条件をそろえて企業の新規参入を促し、需要の増えている外食・中食に適した業務用の米生産を増やしたいとしています。まさに「しきゆたか」などの米のことです。

一方、ミネアサヒなど生産量が少なく高価格のブランド米は、都道府県が品種開発し過ぎており、消費者ニーズとの「ミスマッチ」が生じているというのです。そのため、国は種子法廃止と引き換えに「農業競争力強化支援法」という新しい法律をつくり、都道府県などが開発する銘柄は「集約」するべきだと明記しました。

ブランド米は「集約」されていく?

こうした国の方針に対して、生産者や市民団体からは反発が上がり、「種子法を廃止するべきではない」という運動も起こりました。「多国籍バイオ企業が種子を独占しようとしている」「遺伝子組み換えの米がやって来る」との見方も根強くあります。

国は外圧の影響は否定。遺伝子組み換えや遺伝資源の独占などは別問題だとします。また、都道府県の品種開発には当面、地方交付税で予算措置を続ける方針を示しました。しかし、都道府県からは独自に条例を定めて、これまでの取り組みを続けていこうとする動きもあります。

個人的な意見になりますが、外資の参入や遺伝子組み換えの問題は、今回の種子法廃止と直結するとは思えません。企業の開発努力や若手農家の意欲は尊重していかなくてはならないでしょう。しかし、銘柄を絞り込み、品種の多様性を減らしていく方向性は疑問です。

ある米卸の関係者は「魚沼産コシヒカリなどほんの一握りの高級ブランド米を除けば、今の米はそれほど価格差や品質の違いがなくなってきた」と言います。その魚沼産コシヒカリも今年、日本穀物検定協会による食味ランキングで30年近く守ってきた「特A」から初めて「A」に後退して話題となりました。一方で「特A」の認定数自体は43銘柄あり、過去3番目の多さでした。「ニッポンのお米」が全体にレベルアップしていることは間違いありません。

そのうえで、私たちの選択も問われています。棚にずらりと並ぶのが、バラエティーに富んだ多品種のお米である方がいいのか、特定のお米を「いつもの味」として選べる方がいいのか。皆さんはいかがでしょうか。