はじめに

4月26日に開かれた、ネット証券国内最大手、SBIホールディングス(HD)の2017年度決算説明会。普段は同社の決算説明会には顔を出さない全国紙やテレビ局まで取材に詰めかけ、用意された席数は従来を大きく上回るものとなりました。

彼らのお目当ては、前回の説明会でグループの総帥、北尾吉孝SBIHD社長が語った「コインチェックはカス中のカス」に並ぶような衝撃発言を拾うことだったと思われます。北尾社長が仮想通貨に関する発言をするたび、会場にはパソコンのキーボードを叩く音が響き渡りました。

しかし、今回の会見で北尾社長の口から出てきた計画は、その期待を大きく超えるものでした。仮想通貨交換業の“大本命”がついに動き出す――。静観を続けていたSBIHDが今年夏をメドに、仮想通貨取引所の本格的な開始日について最終的な結論を出すというのです。


延期していたサービスの開始

「本格的な開始は夏に結論を出して、すぐに始めるつもりです。われわれの経営資源を総動員して、すぐにナンバーワンにしてみせます」。決算説明会の中盤、仮想通貨交換業への取り組みについて触れたパートで、北尾社長は自信満々に計画をブチ上げました。

SBIHDの仮想通貨取引所構想は、今回、急に降ってわいたわけではありません。同社は2016年11月にSBIバーチャル・カレンシーズという子会社を設立。2017年9月には仮想通貨交換業の登録を済ませ、今年1月に一部の顧客限定で仮想通貨「XRP」の試験販売を開始しました。

しかしその後、当初は2月中を予定していたサービス開始を延期すると発表。本格的な仮想通貨取引のスタートを見送っていました。その理由について、北尾社長は次のように説明します。

1月に、仮想通貨交換業者「コインチェック」で仮想通貨「NEM」の不正流出事件が発生。その後の金融庁による立ち入り検査の結果、登録業者も含めて、多くの取引所が行政処分を受けました。これと前後して、仮想通貨の取引ボリュームは昨年末のピークに比べて、半分の規模にまで縮小しました。

一方で、サービス開始の延期には、SBIグループ内の事情もあったようです。「われわれがやり出したら、あっという間にナンバーワンになる。したがって、ものすごい数のお客さんが来るのに備えて、それに耐えうるシステムを構築しておかないといけません」(北尾社長)。

そのうえで、「SBIをターゲットとして、いろいろなところが攻めてくる可能性がある。安全性も徹底的に追求しておかないといけませんでした」(同)。セキュリティ面での体制を整備する必要があったという側面にも言及しました。

なぜ本格始動に言及したのか

こうした懸案事項がありながら、今回、具体的に結論を出す時期を公表したということは、裏を返せば、さまざまな課題の解決にメドが立ちそうであることを意味しています。

多くの交換業者で問題が発覚し、取引ボリュームが激減している点については、「まずは信頼を立て直さないといけない」(北尾社長)。

SBIバーチャル・カレンシーズは、自主規制団体としての認定取得を目指している「日本仮想通貨交換業協会」に参画。これまでのSBIグループの経験を踏まえて、さまざまな提言をし、業界を先導していく方針を固めています。

さらに、米国で進められている仮想通貨に対する規制強化の動きも、SBIにとってはプラスだとみているようです。「米SEC(証券取引委員会)がリップルとイーサリアムを有価証券に認定する動きがあります。ただ、日本ではどちらも仮想通貨として認定されています。米国で規制が強まれば、日本にガーッとシフトしてくる」(同)。

また、セキュリティ強化に向けたシステム対応でも着々と手を打っています。「今、われわれが一番力を入れているのが、ウォレットのセキュリティ」(同)。顧客が仮想通貨を保管しておくウォレットについては、英nChainなど海外の5社と提携し、最も高い安全性を確保するといいます。

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