はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は花輪陽子氏がお答えします。
看護師をしていますが、腰痛や背中の痛みがあり、肉体的に楽な職場に転職を考えています。ただ、転職をすると、今より収入が月5万円減り、家賃の高い部屋に引っ越さなければなりません。将来のため3,000万円を貯めたいと思っていますが、現在の預金は1,000万円しかありません。転職後に、残り2,000万円を貯められるか不安です。アドバイスよろしくお願いします。
〈相談者プロフィール〉
・女性、39歳、離婚して一人暮らし、子供なし
・職業:会社員
・住んでいる地域:東京都
・手取りの世帯月収:25~30万円
・毎月の支出の目安:15万円程度
花輪: 将来のために3,000万円を貯めたいということですが、そもそも目標設定が正しいのか、無理がないのかも含めて考え直してみましょう。状況が変わった場合はプランの変更も必要だからです。
シングルの老後資金、いくら必要?
老後資金にはいくら必要でしょうか。総務省の家計調査(2017年)によると、年金世帯の月間の平均支出は、約26万円(年間312万円程度)です。25年間で7,800万円程度が必要という計算になります。
一方、年金世帯の平均収入は月額約21万円(年間約252万円)、25年間で約6,300万円です。必要総額に対して、年金などの収入だけだと、約1,500万円の赤字になってしまいますね。娯楽費や急病時の備えなど、予備費として1,000万円程度は欲しいと考えると、夫婦で約2,500万円程度の老後資金があると安心です。
単身の場合はどうでしょうか。同調査によると、月間の平均支出が約15万円(年間180万円程度)に対して、平均収入は月額約11万円(年間約132万円)なので、25年間で約1,200万円の赤字になることが分かります。予備費500万円程度を加えると、1,700万円程度を準備する必要があります。介護が必要になった場合に世話をしてくれる人がいるかいないか、持ち家かどうかでも必要金額の条件が変わってきます。
年金や退職金を確認し、足りない部分は確定拠出年金などを活用しましょう。また、働き続けることによっても不足額をカバーすることができます。
運用して、より有利にお金を育てる
現在よりも収入が5万円減り、家賃が高いところに引っ越すということですが、仮に手取り月収が25万円、支出が20万円だとしましょう。毎月5万円(年間60万円)を貯めることができれば、60歳までの約20年間で、あと1,200万円貯めることができます。
目標金額の残り2,000万円に届かないと思われるかもしれません。ですが、運用をすることによって目標金額に近づくことも可能です。
「72の法則」 というものがあり、預けた元本(元手)を金利によって2倍にするには、どれだけの年数がかかるのかを知ることができます。計算方法は簡単で、72を金利(複利)で割れば、2倍になるまでのおおよその年数が分かります。
例)年利(複利)3%の場合:72÷3=24
つまり、3%複利で運用すれば、約24年で元金と利息の合計が、元金の2倍になることが分かります。現在手元にある1,000万円を運用に回してもよいですし、新規で積み立てるお金を運用に回すのもよいでしょう。
初心者は投資信託で分散投資を
現在、銀行の普通預金の利息は0.001%程度です。つまり、預金などの「安全資産」だけでは、3%の利回りを目指すことが難しいといえます。
そこで、運用利率を上げるには、運用資産に「株式」を加えていくことが考えられます。株式のリターンは5%程度といわれています。
「株」と聞くと、「損しそう」「こわい」というイメージをお持ちかもしれませんね。たしかに「A企業」の株式を持つことには、その企業が突然経営破綻する危険もつきまといます。
そのため、初心者におすすめなのが、十分に分散された「投資信託」です。投資信託は、複数の企業の銘柄が組み入れられたパッケージ商品です。つまり、個別企業のニュースを日々追い続ける必要がありません。
TOPIX(東証株価指数)やダウ工業株30種平均に連動するような投資信託もあります。投資信託を利用することにより、簡単に国際分散投資が可能になるのです。
投資をすると、資産が増えるかもしれませんが、減るリスクもあります。できる限り安全に運用するには、リスクのある商品は少額で始めること、分散させることが大切になります。
現在では、月1,000円程度から投資信託を積み立てられる場合も多いです。また、株式だけではなく債券(国債や社債など)も組み合わせることが重要です。つみたてNISAや確定拠出年金などの制度が整ってきているので、税制が有利な制度を活用しながら老後資金を育てていけるといいですね。