はじめに

ゴールデンウィークが終わり、新入社員を迎え入れる職場も多いことでしょう。「売り手市場」と言われている昨今、企業は有能な学生を獲得するのに多大な時間とコストを投じてきました。にもかかわらず、新人が1年を待たずして退職をする事態が少なくありません。

厚生労働省の調査によれば、新入社員(新卒)大卒の11.3%、高卒の17.3%が1年以内に退職をしています。さらに3年以内になると、その数字は40%を超えています。退職理由として、職場の人間関係や上司との関係は必ず上位に挙がります。

組織のリーダーにとって、年度初めは職場のコミュニケーションを円滑にし、新人の受け入れ体制を作る重要な時期です。そこで、今回は新人を迎える組織の皆さんに、今日から役立つコミュニケーション術をお伝えしたいと思います。


コミュニケーションを阻害するもの

コンサルタントとして多くの企業の組織開発の相談を受けて筆者が感じることは、標準化された業務が機械化・アウトソースされるケースが増える一方で、有能な上司や先輩社員には非定型で難易度の高い業務が急増し、部下・後輩の指導にかけられるパワーも少なくなっているのではないか、という点です。

情報の伝達が対面からメールやSNS中心にシフトした昨今、組織内のコミュニケーションの課題が顕著に増えています。期初の戦略方針の中に「コミュニケーション強化」が組み込まれている組織も多いです。しかし、大事なことはわかっていても、具体的な対策を打てず、「重要課題」のままになってはいないでしょうか。

リクルートマネジメントソリューションズが組織のチームリーダー層に対して実施した「職場での『心理的安全性』に関する実態調査」(2017年6月実施)では、「心理的安全性(自分の考えや感情を安心して気兼ねなく発言できる雰囲気があること)」が高い組織ほど具体的な施策を意識しているのに対し、低い組織は「コミュニケーション強化」という抽象度の高い項目のままで、具体化されていないという結果が出ています。

理想のコミュニケーション方法とは?

話を新人の受け入れに戻しましょう。新人に対する指導方法について、「仕事に慣れるまでは、まずは教えてあげることが大事」というティーチング派もいれば、「最近の新人には何をやりたいのかをまず聞くようにして、自分で考えてもらう」というコーチング派の上司や先輩もいます。中には「両者を状況に応じて使い分けるべし」という人もいます。

しかし、2つの使い分けでコトが済むほど簡単ではありません。同じように教えても、素直に聞く新人もいれば、心が折れてしまったり、反抗的な態度を取る新人もいます。相手によって指導の仕方も変えていく必要があるのです。

新人に対するコミュニケーション方法の前に、そもそもコミュニケーションとは何でしょうか。

語源となるラテン語のCommunicatioが「共有する」という意味を持っていることからも、情報を双方向で伝え合うことと、ここでは定義したいと思います。コミュニケーションにギャップが生じるのは、発信側が伝えたい情報と受け取り側の欲しい情報が異なるからです。ここで重要なのは、人それぞれ情報の伝え方や受け取り方が異なることなのです。

今注目のコミュニケーション理論

1970年代にデイビッド・メリル博士らが提唱をした「ソーシャルスタイル理論」がビジネスに応用され、現在注目を浴びています。この理論は、人の性格がある特徴的な行動に表れることを発見し、行動傾向から個々人に対しての適切なコミュニケーションの方法を把握するというものです。

相手の言動を「感情表現を表す/抑える」と「意見を主張する/聞く」の2つの観点から(相手を)4つのタイプに分類し、相手にとって好ましいコミュニケーションをとることで、受け入れられる度合いを高めていくことができるのです。

早速、以下のチェックシートをもとに、自身や新人のソーシャルスタイルをチェックしてみましょう。自分と異なるスタイルの相手に対して、相手にとって気持ちの良いコミュニケーションのとり方を考えていくことが信頼関係を作るうえで重要です。

4つのスタイルで新人の心をつかむ

それでは、4つのスタイルそれぞれの特徴を見てみましょう。

アナリティカル(Analytical) :控えめで、自分からあまり話をせず、じっくり考えて動くタイプ。思いつきでの指示や至急対応の依頼はストレスを感じるので注意。このスタイルの新人には、考える時間を与えて、丁寧に指示をすると、きちんと仕事をこなすことができる。
ドライビング(Driving) :行動が早く、ズバッとものを言うが、感情を表に出さないタイプ。ただし、目的が不明確な仕事にはストレスを感じるので注意。このスタイルの新人には、目的を伝えて、単刀直入に依頼をすると、テキパキと仕事を進めることができる。
エミアブル(Amiable) :いつも笑顔でチームの雰囲気を大切にし、人と争わないタイプ。逆に、大きな責任や物事を決めさせるのは苦手なので注意。このスタイルの新人には、チームや他人の役に立っていることを伝え、上司や先輩がサポートしてあげると、安心して仕事ができる。
エクスプレッシブ(Expressive) :話好きでいつも大らか、気持ちが表情に出やすいタイプ。細かい指示を与えすぎるとストレスを感じるので注意。このスタイルの新人には、世間話なども交えながら褒めてあげると、調子に乗って頑張ることができる。

かつては、上司に対していかに気持ちの良い対応をするかが処世術の重要なポイントでした。しかし、現在はむしろ、部下や後輩をいかに動かし、成果を上げるかがビジネスパーソンとしての力量を測る大きな要素となっています。相手のスタイルに合わせたコミュニケーションをとることで自身の仕事の効率や組織の生産性を高めていければ、将来は明るいはずです。

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