はじめに

2017年度の最終損益は9億6,000万円の赤字――。2009年度(最終損失635億円)以来、8年ぶりの赤字転落に陥った、百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングス(HD)。

5月9日に開かれた決算説明会も、さぞ落ち込んだ雰囲気だったかと思いきや、説明に立った杉江俊彦社長の言葉は、意外にも楽観的なトーンが随所に感じられるものでした。

「当初はもっと赤字が出ると思っていました。しかし、不採算事業処理のチームが頑張ってくれて、清算して損失を出さないといけないと思っていた事業も、売却してくれました」

対照的に映る、足元の業績と社長の言葉。その理由はどこにあるのか。決算説明会でのやり取りから考察してみます。


杉江社長「赤字は予定通り」

三越伊勢丹HDの2017年度業績は、売上高が前期比1.2%増の1兆2,688億円、本業の儲けを示す営業利益が同2.0%増の244億円、そして冒頭でも触れたように、最終損益は前期の149億円の黒字から一転、9億6,000万円の赤字でした。

本業の儲けがプラスだったのに最終損益が赤字に転落してしまった最大の要因は、不採算店の減損処理や事業構造改革などの費用として261億円の特別損失を計上したため。営業利益までの段階では、既存の百貨店が比較的堅調に推移したことに加えて、各種経費の削減を積み重ねたことで、店舗閉鎖や在庫処理に伴うマイナスを補った格好です。

「前期のうちに、できるだけ膿(うみ)を出しておきたかった。赤字は予定通りです」(杉江社長)

平たく言えば、すでに構造改革のメドが立っており、本業の業況は底打ち。2017年度は構造改革のための一過性の費用がまとまって発生したため、最終損益だけが赤字になった、というのが杉江社長の説明です。

2018年度はV字回復の計画

実際、会社側の2018年度の業績見通しは、構造改革の効果をある程度織り込んだ、V字回復の計画となっています。

売上高こそ、3月の伊勢丹松戸店の閉店やスーパーマーケット「クイーンズ伊勢丹」運営会社の株式譲渡などの影響で、前期比5.8%減の1兆1,950億円とマイナスですが、営業利益は既存店の持ち直しや、前期に発生した在庫削減費用(20億円)がなくなること、さらに人件費やその他経費の圧縮などによって、290億円と2ケタ増益を見込んでいます(下図)。

具体的には、松戸店をはじめとした不採算店舗・事業の閉店・譲渡によって、30億円の増益効果があるといいます。また、経費の見える化や早期退職などで、同じく30億円のプラス。さらに、在庫処理が前期で一巡し、在庫に関連した倉庫や人員のための費用も圧縮できる見通しです。

「リフォーメーションの主だったものは、昨年度で終了しました。今年度は積み残した課題の方向性を決定する予定で、こちらは2019年度以降の営業利益にプラスに働きます」(杉江社長)

一連の施策によって、販管費は2017年度の3,428億円から、2018年度は3,250億円まで圧縮。2019年度は3,200億円と、2012年度並みの水準まで削減できる見通しです。ここには新規に連結した複数の子会社の販管費が約300億円含まれているので、既存事業ベースだと2,900億円レベルまで圧縮する計算になります。

これに伴い、昨年11月に発表した3ヵ年経営計画で2020年度の目標としていた営業利益350億円の達成が、1年前倒しできる見通しだといいます。

[PR]NISAやiDeCoの次は何やる?お金の専門家が教える、今実践すべきマネー対策をご紹介