はじめに

電車やバスに乗る場合、電子マネーは「Suica」や「PASMO」を使うのが当たり前――。そんなこれまでの常識に変化が起きるかもしれません。

流通大手のイオンは5月11日、同社が展開する電子マネー「WAON」でバス運賃を決済できるサービスを、北海道のバス会社3社で順次スタートさせると発表しました。区間をまたぐごとに運賃が加算される多区間運賃路線において交通系ICカード以外の電子マネーで決済するサービスは、全国でも初めてだといいます。

今回の取り組みはどんな立て付けで、利用者にはどのようなメリットが考えられるのでしょうか。イオンの戦略をひも解いてみます。


今秋から多区間運賃路線に拡大

WAONによる路線バスの運賃決済が導入されるのは、十勝バス、くしろバス、阿寒バスの3社です。まずは十勝とくしろの2社が5月21日から定額運賃路線でサービスを開始。今秋から一部の多区間運賃路線にも拡大していく予定です。阿寒バスでも今秋から3つの多区間運賃路線でサービスを導入するといいます。

十勝バス

5月21日~:西地区コミュニティ路線
今秋~:一部の多区間運賃路線


くしろバス

5月21日~:たんぼく循環線
今秋~:イオン釧路線


阿寒バス

今秋~:リフレ線(鶴野経由・大楽毛経由)、高専まりも線、鶴野ニュータウン線

交通系ICカードの空白地を狙う

WAONによる路線バスの決済サービスは、実は今回が初めてではありません。イオンの広報担当者によれば、たとえばイオン本社のお膝元であるJR海浜幕張駅と幕張新都心を結ぶ路線などで実績があるといいます。ただ、これまでは定額運賃路線だけでした。

背景にあるのは、すでにSuicaなどの交通系ICカードが導入されている交通機関では、後からWAONなどの流通系ICカードが参入するのは困難だったという事情です。今回、WAONによる決済を導入する3社は、まだ電子マネー決済を導入していなかったため、参入する余地がありました。

それでは、イオンとしてのメリットはどこにあるのでしょうか。前出の広報担当者は「“地域の足”の料金にWAONを使っていただくことで、利用シーンが拡大し、ブランディングの向上に資すると考えています」と説明します。

利用者の立場から考えると、現時点ではバスの中でチャージ(入金)はできない点に若干の不便さがありそうです。ただ、ポイントは通常の買い物と同じように貯めることができ、200円を支払うごとに1ポイントがもらえます。日常の買い物でWAONを使っている場合、そのメリットは小さくなさそうです。

買い物利用との相乗効果は大

他の交通機関への導入拡大については、北海道での実績を踏まえて、話があれば検討したい、というのがイオン側のスタンスです。交通系ICカードの空白地はまだ全国に点在しており、拡大の余地はありそうです。

特に、イオンモールが地域の中核となっているようなエリアでは、買い物での利用と相乗効果が見込めるため、イオンと利用者、双方にとってのメリットは大きいかもしれません。こうした動きがどこまで広がっていくのか、北海道でのスタートダッシュが気になるところです。

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