はじめに

最近、車のガソリンを入れに行くたびに、ガソリン価格の上昇を実感します。その背景には原油価格の上昇があるわけですが、今回はこの原油価格の上昇が今後も続いていくのか、原油価格の上昇は私たちの生活にどのような影響を与える可能性があるのか。それらを考えるためにいくつかの視点から分析をしていこうと思います。


米国のイラン核合意からの離脱

ここのところ、ニュース番組ではドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)委員長による初の米朝首脳会談に関する特集が組まれていますが、少し前までは米国のイラン核合意からの離脱がよく取り上げられていました。

簡単にイラン核合意について、おさらいしておきます。イラン核合意とは、イランの核開発計画について、2015年7月に米国、中国、ロシア、英国、フランス、ドイツの6ヵ国がイランと最終合意した計画を指しています。

その内容は、2016年1月にウランの濃縮などの核開発活動を長期間にわたり制限する見返りとして、欧米諸国と国際連合が核開発に関する対イラン経済制裁を解除するというものでした。

トランプ大統領は2016年の大統領選挙中から本合意を批判しており、離脱することを公約として掲げていました。先月から欧州の各国首脳が離脱しないように説得を続けていましたが、今月8日に本合意からの離脱を表明し、同時にイランに対しての経済制裁を再開するとしました。

イランは世界第4位の原油埋蔵量を誇ります。今回のトランプ大統領の表明を受け、同国からの原油輸出量の減少が懸念されるものの、イランのハサン・ロウハニ大統領が、米国を除く5ヵ国との核合意は続けると話したことや、前述のように本件は2年前から可能性としては把握されていたことから、現時点ではオイルショックのようなパニックは起きていません。

原油高の背景と今後のポイント

米国による核合意からの離脱だけでなく、少し前には米国、英国、フランスによるシリアへの軍事行動もあり、中東地域の地政学的リスクから原油相場は依然として上振れしやすい環境にあります。

また、ここ数ヵ月の原油相場の上昇には投機的な資金も入っていると考えられ、原油相場は実需以上に値上がりしやすい状況になっていると捉えるほうがよいでしょう。

しかし、仮にイランからの原油供給が減少したとしても、そこまで大きな影響はないと考えられます。OPEC(石油輸出国機構)加盟国とロシアなどによる協調減産が続いているほか、米国では石油掘削装置(リグ)の稼働数の増加に伴い、原油生産量も増加しています。

つまり、世界的に見れば、現時点ではショックを吸収するだけの余力があるのです。まずは、来月に開催が予定されているOPEC総会の内容が注目されます。

原油高は日常生活に影響を与えるか

冒頭に述べた通り、原油高によってガソリン価格が上昇するなどの影響は当然あります。ただ、それ以外の可能性としては大きく2つの悪影響が考えられます。

1つ目は、原油高を発端に物価全般も上昇していくということ。2つ目は、原材料価格の上昇により企業業績が悪化し、企業側が採用を控えて雇用環境が悪くなることや、給与が上昇しないなどが挙げられます。

まず、1つ目の懸念については、現段階ではそれほど気にしなくてよいと考えます。私たちが接するモノの価格において、実は金属や繊維、家畜などの原材料価格の上昇が大きなインパクトを与えます。

下図の通り、足元での原油価格の急上昇に比べ、その他の原材料価格は横ばい、ものによっては下落している状況です。日本国内においては、むしろ原油関連以外の物価については、しばらくは横ばい、または下落する可能性もあると考えています。その意味において、18日に発表される日本の消費者物価指数は要注目です。

2つ目の懸念点についてですが、こちらも現時点では過度に気にすべきことではないと考えます。資本金10億円以上の大企業(除く金融業・保険業)の損益分岐点売上高比率を見てみると、下図の通り、製造業・非製造業ともに収益体質が向上していることがわかります。

原油価格のよほどの急騰が起こらない限りは、十分に吸収できる状態であり、企業側による採用や賃金上昇に対する悪影響は起こらず、即座に個人消費に大きな悪影響を与えるようなことはないと考えます。

(文:Finatextグループ アジア事業担当 森永康平)

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