はじめに

昨年のREIT(不動産投資信託)市場は、好調なファンダメンタルズにも関わらず株価は低迷しました。この最大の背景は、J-REITで運用する投資信託(REIT投信)からの資金流出でした。

資金流出は最近やや沈静化しています。この問題はでに過去のものとなったのでしょうか。


投信がREIT市場成長の原動力に

2003年にREITで運用する投信の組成が可能となって以降、REIT投信市場の規模は大きく成長しました。REIT投信によって小口資金でもREITへ分散投資できることや、投資先REITの銘柄選定をプロの運用者に任せることが可能となり、REITの投資家層と市場規模の拡大につながりました。

他方、昨年4月に金融庁の森信親長官が、毎月分配型の投信は長期の資産形成に適さないとの否定的なコメントが示されました。それを機に、投信を販売する金融機関が毎月分配型の投信を積極的に販売しなくなりました。

REIT投信の大部分は毎月分配型の投信であるため、毎月分配型の投信への資金流入が減少したことは、REIT市場にとって特に大きな逆風となりました(下図)。

REITは高い分配金利回りが特徴で、分配金を再投資に回せば長期での複利効果は大きくなります。ただし、特に高齢の投資家にとっては、生活資金の一部としての分配金へのニーズも大きく、毎月分配はそのニーズに沿った形態ともいえます。

また、REITでポートフォリオ運用をすれば分配金収入が毎月発生するため、それを分配すること自体はREITの商品性にも合致します。したがって、毎月分配自体は否定されるべきではないでしょう。

過剰分配が問題の本質

REIT投信の本質的な問題は、分配水準が高すぎる点にあります。

J-REITで運用する毎月分配型投信の場合、毎月の分配金を年率換算(12倍)して基準価格で割ると、平均で10%程度の利回りになります。他方、現在REITに直接投資した場合の分配金利回りは平均4%程度で、10%分配するには原資が不足します。

REIT投信を金融機関が積極的に販売していた際には、REIT投信には日々資金流入がありましたので、そのお金を分配金に回して不足する分配金原資を補っていました。しかし、昨年4月以降、毎月分配型の投信の販売が自粛状態となり、REIT投信への資金流入が減少しました。

そこで、REIT投信は不足する分配金原資を捻出するため、保有するREITを売却して換金する必要が生じました。毎月分配であるため、分配原資を作るための換金売りは毎月行われ、この売り圧力が昨年のREIT市場の継続的な調整につながりました。

もちろんREITそのものは継続的に資産(保有不動産)を換金売りすることによる分配は行っておらず、不動産を保有して得る賃料収入を原資とした利益を分配して、4%程度の分配金利回りを無理なく実現しています。

他方、REITで運用するREIT投信では、REITから受け取る分配金に、資産であるREITを売却した資金を加えて、10%程度の表面的な利回りを作り出している状態です。厳密には、資産を売却して分配すればその分元本は減少していきますので、この場合は利回りという表現は本来適切ではありません。

これでは、REIT投信がREITの本来の商品性を変えており、REIT投信が“派生商品化”しています。金融庁が指摘した毎月分配型投信の問題の本質は、毎月分配にあるのではなく、過剰分配にあるといえます。

暴風雨から梅雨の長雨へ

すべての毎月分配型のREIT投信が過剰分配というわけではありませんが、過剰分配状態にあるREIT投信は、運用するREITから受け取る分配金水準と同じか、それ以下に分配金を引き下げる必要があります。ただし現時点では、REIT投信の間で分配金減額の動きはほとんどありません。

投信販売や解約による資金流出は、足元では一時期より沈静化しています。一方で、過剰分配はまだ解消されていません。一時的な暴風雨はいったん去ったものの、しとしとと降り続く“梅雨の長雨”状態へと移っているのが、REIT投信からの資金流出問題の現状です。

高齢化により資産取り崩しニーズは社会全体としては高まる方向にありますが、個々人の資産状況やライフステージは千差万別です。投信が全投資家一律に高水準の分配を行うのではなく、投信では分配せず投資家がそれぞれの必要に応じて解約するのが、投資目的やニーズの多様化に対応した本来の投資家本位のあり方だと私は考えます。

一部の証券会社では一定の頻度や金額で定期的に解約して現金化を行うようなサービスもありますので、もっと広範に活用されるべきでしょう。

(文:みずほ証券 エクイティ調査部 シニアアナリスト 大畠陽介)

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