はじめに

経済史の言葉「サブプライムローン」

次に注目したいのが、経済史に残りそうなキーワードの数々です。

実は2008年発売の第六版で新登場したキーワードにも、面白いものがありました。例えば「貸し渋り」もそのひとつ。金融機関が融資条件を厳しくしたため比較的健全な企業まで資金調達が困難化する状況を意味しています。

この言葉が大きく話題になったのは1998年のこと。同年の新語・流行語大賞でもトップ10に入賞するほど、世間から注目された社会問題でした。このように、広辞苑が新掲載する言葉の中には、経済史に刻まれているようなキーワードも存在しています。

2018年発売の第七版の中では「サブプライムローン」(subprime loan)が最大の注目株かもしれません。広辞苑では「アメリカで、返済能力の低い人への貸付。そのうち特に住宅ローンの焦げつきが2007年に深刻化し、世界的な金融危機の発端となった」と説明しています。

ここでいう金融危機とは、2008年9月に起こった「リーマンショック」(Lehman Shock、リーマン・ブラザーズの破綻に伴う金融危機)のことを指しているとみていいでしょう。リーマンショックの方は新項目とはならなかったようですが(固有名詞を含む言葉を嫌ったのかもしれません)、サブプライムローンの方はしっかり史実として記録されたことになります。

このほか第七版では、2009年ごろに社会問題化した「雇い止め」も新たに登場しています。意味は「有期で雇われていた人が、契約期間満了時に再契約されないこと」と説明されています。

一方で、第二次安倍政権(2012年12月~)の経済政策として話題になった「アベノミクス」は未掲載でした。同語のネタ元である「レーガノミクス」(米レーガン政権の経済政策)は2008年発行の第六版で登場済みなので、アベノミクスの方は「歴史的評価が定まる時期を待っている状況」なのかもしれません。

CSRの言葉「三方良し」

次に注目したいのがCSR(corporate social responsibility)、すなわち企業の社会的責任に関する言葉です。環境、人権、地域貢献、組織の統治などに関連するキーワードも、ここ最近注目されています。

ちなみにその「CSR」自体、広辞苑では2008年発行の第六版で初めて採用しています。その意味は「企業の社会的責任。企業は利益の追求だけでなく、環境保護・人権擁護・地域貢献など社会的責任を果たすべきであるとする経営理念」としています。ちなみに日本のビジネス界で「CSR元年」という言葉が流行ったのは2003年のことでした。

このほか第六版では「サステイナビリティー」(sustainability、持続可能性)や「コンプライアンス」(compliance、鳳輦遵守)といったCSR系の基本用語も初登場しました。このことは「2000年代に同分野への注目度が大きく高まっていたこと」を物語っています。

いっぽう2018年発行の第七版では、近江商人の商道徳として知られる「三方良し」が初登場しています。売り手よし、買い手よし、世間よし(地域社会への貢献)の三つを重視する経営理念を指しました。本連載でも「日本のビジネス界に伝わる商道徳の言葉〜江戸時代のCSR探訪〜」の回で紹介した概念ですね。

このほか個人的には、エシカル消費、エシカルファッションなどの複合語を通じてよく聞く「エシカル」(ethical、倫理的な)が採録されても良かったように思っているところです。しかし第七版で同語の採用はありませんでした。

ということで前編はここまで。次回の後編でも引き続き、広辞苑・第七版で新登場した経済ワードを紹介する予定です。

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