遺伝子治療がいよいよ実用化の段階を迎えています。これは従来の医薬品の代わりに、治療用の遺伝子を使う技術です。製薬業界で長らく「異端」扱いされてきましたが、昨年、米国で承認が相次ぎ、大きな話題となりました。最近は欧米大手製薬会社による遺伝子療ベンチャーの大型買収も目立ちます。

7~8年前まで遺伝子治療が低迷していたことを考えると、隔世の感があります。従来の医薬品では考えられないような治療成績を示したことが背景にあり、今後、本格的な普及と市場の拡大が見込まれます。はたして、日本にもこの分野で活躍が期待できる企業が存在するのでしょうか。


米国で承認相次ぐ遺伝子治療

2017年に米国で遺伝子治療の承認が相次ぎました(下図)。

8月にスイスのノバルティスの「Kymriah」が白血病を対象に承認され、10月には米カイト・ファーマの「Yescarta」が血液がんの一種で承認を取得しています。これらは患者の免疫細胞に、がんの目印を認識する遺伝子を組み込み、がんを強力に攻撃するようにデザインされたものです。

12月には、米スパーク・セラピューティクスの「Luxturna」が、視力低下などが進行する遺伝性の疾患を対象に承認されました。

承認が続いた理由は、これらが既存の治療法では考えられないような治療成績を示したからです。Kymriahは投与後3ヵ月以内に83%の患者のがん細胞が消失し、Yescartaは2種以上の治療が奏功しなかった患者に投与して、51%の患者のがん細胞が消失しています。Luxturnaは93%の患者の視機能が改善しました。

遺伝子治療を開発するベンチャー企業の大型買収も目立ちます。昨年8月には、カイト・ファーマが米ギリアド・サイエンシズに約1兆3,000億円で買収されました。今年に入ってからも、1月に米ジュノ・セラピューティクスが米セルジーンに、4月に米アベクシスがノバルティスに買収され、いずれも約1兆円の買収金額です。

平坦ではなかった遺伝子治療の歴史

遺伝子治療の技術は1980年代に確立されました。1990年に米国で初めて免疫不全症の患者で成功したのを機に開発が活発化しましたが、1999年の死亡事故や2002年の副作用による白血病の発症でブームが下火となってしまいます。

しかし、その後も技術は着実に進歩し、2011年頃から成功例が欧米を中心に報告されるようになりました。開発件数も2012年頃から増加し、現在、欧米を中心に、がんや難病などの領域で700件以上の開発が行われています。2012年にはオランダの会社が遺伝性の疾患を対象に先進国で初めて承認を取得し、それ以降は年々承認件数が増えています。

ただし、課題もあります。特に昨今、しばしば話題になるのが治療費の問題です。承認第1号の「Glybera」は治療費が1億円を超え、それ以外も総じて高額です。治療費が高額となる主な理由は、従来の医薬品と違い製造工程が複雑、患者数が少ない、患者本人にしか使えないなど、効率の悪さによるものです。

こうした課題の解消に向け、注目を集めているのが「成功報酬型」の治療費の支払いです。「Strimvelis」は患者が治癒しなかった場合の返金保証を付けており、Kymriahは1ヵ月以内に治療の効果が現れなければ治療費を請求しない、Luxturnaも効果が一定の基準に達しない場合、一部払い戻しを行うというものです。

そのほか、技術革新によるコスト低減への取り組みも始まっています。

市場は2025年頃に1兆円を超える見通し

遺伝子治療の市場は立ち上がったばかりです。まだ承認品目数も少なく、現状は数十億円程度の規模にすぎないと推測されます。

しかし近年、開発が活発化しており、今後、承認品目数の増加に伴う市場の拡大が見込まれます。順調に普及が進めば、2025年頃には1兆円を超える規模に成長する見通しです。

現在、この分野で、日本は開発件数では欧米に遅れています。が、大学の基礎研究力は高く、その成果を活用することで格差を縮めることができると期待されます。

活躍が期待できる日本企業は?

遺伝子治療はしばらく不遇な時代があり、従来の製薬業界では「異端」扱いされてきました。そうした中で、日本にもこの分野に粘り強く取り組み、独自の技術や製造設備などをもつ特色のあるベンチャー企業が存在します。遺伝子治療の実用化は始まったばかりで技術革新の余地も大きく、今後のビジネスチャンスの広がりが見込まれます。

遺伝子治療は開発に多額の資金が必要となりますので、事業化には製薬会社との提携が重要です。そうした可能性を考慮しますと、タカラバイオ(証券コード4974)、オンコリスバイオファーマ(4588)、アイロムグループ(2372)に注目できます。

特にタカラバイオは、最近、国内で大塚製薬と提携しており、さらに海外での提携も実現すれば、大きな飛躍が期待できるでしょう。

(文:いちよし経済研究所 企業調査部 山崎清一)