はじめに

広辞苑における「人名」の掲載基準とは?

さて固有名詞といえば、人名も忘れてはいけません。広辞苑には著名人もたくさん載っています。

経済以外の分野では、第七版でこんな人物が登場しました(以下、敬称略)。まず日本人では、漫画家の「赤塚不二夫」(2008年没)、劇作家・演出家の「つかこうへい」(2010年没)、落語家の「立川談志」(2011年没)、政治家の「土井たか子」(2014年没)、タレントの「永六輔」(2016年没)を掲載。一方、外国人は、政治家の「(バラク)オバマ」、ミュージシャンの「(ボブ)ディラン」や「(マイケル)ジャクソン」(2009年没)を掲載しています。

ここで注目しておきたいのが、広辞苑の場合、日本人と外国人とで「掲載基準」に違いがあることです。

まず日本人は「故人のみ」の掲載となっています。ということは、広辞苑の新項目を調べることで、最近10年間に「鬼籍に入った著名人」を振り返ることができるのです。

一方、外国人の場合は「存命であっても日本での知名度がある場合」は掲載するのだそう。実際、バラク・オバマやボブ・ディランの両名は存命ですが日本での知名度がある(ちなみに両名ともノーベル賞の受賞者である)ため、掲載されているわけです。

人物の名前「ジョブズ」

そして広辞苑には、経済界の名士もたくさん登場します。

例えば2008年発売の第六版では、ソニーの創業者「盛田昭夫」(1999年没)や「井深大」(いぶか・まさる、1997年没)、マイクロソフトの創業者で現在は慈善活動家である「(ビル)ゲイツ」といった人名が登場しました。

一方、2018年発売の第七版では、日本からはダイエーの創業者「中内功」(2005年没、タイミング的には2008年の第六版で掲載があっても良かった人物かも知れません)、海外からはアップルの創業者「(スティーブ)ジョブズ」(2011年没)が新たに登場しました。

こうなると気になるのが「2028年に登場するであろう第八版で、どのような経済人が掲載されるのか」ということ。日本人の場合、故人でないと掲載されない基準があるため、予想は心情的に憚られます。外国人であれば、予想は楽しい作業になりそうです。

ちなみに近年注目されている世界的経営者のうち、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ、グーグル創業者のラリー・ペイジ、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは、まだ広辞苑には載っていません。経営者以外だと、著名な投資家であるウォーレン・バフェット、著書『21世紀の資本』で知られる経済学者トマ・ピケティの名前もありません。これらの人物が次回の版で登場するのか、あるいは、現在は無名の意外な人物が掲載されるのか。おおいに注目してみたいと思います。

他にもいろいろ登場した経済ワード

ということで今回は、最新版の広辞苑で新たに登場した経済ワードについて特集してみました。新語の掲載に保守的な広辞苑においても、これだけ数多くの経済ワードが新登場していたわけです。それだけ経済界の姿は、時々刻々と変化している――ということなのでしょう。

なお本編では紹介できませんでしたが、広辞苑・第七版で新登場した経済ワードには「トリクルダウン」(富裕層の所得増加がゆくゆくは貧困層にも浸透するとする考え方)、「グリーンエコノミー」(自然環境に配慮した経済)、「シェールガス」(頁岩<けつがん>層に含まれる天然ガス)、「ブラック企業」(従業員に劣悪な労働条件を強いる企業)、「価格帯」(価格の範囲)などもありました。なお、以上はあくまで“筆者が気づいた範囲”のキーワードであることをご了承いただければと思います。

「同じ辞書の異なる版を見比べる作業」は正直なところ、かなりマニアックな作業でしょう。しかし「ネットの辞書で、話題の経済ワードが載っているかどうかを確認する作業」ぐらいなら、さほど手間もかからず、かつ「意外と面白い遊び」になるかもしれません。皆さんもぜひ、辞書で経済ワードを探してみてください。

(写真:ロイター/アフロ)

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